沖縄県那覇市の当山美容形成外科。

当山美容形成外科

〒900-0015 沖縄県那覇市久茂地2丁目11−18当山久茂地川医邸4・5階TEL:098-867-2093 FAX:098-869-1832月曜〜土曜/9:00〜18:00 日祝祭日/休診
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脱毛予約

美容外科医のこばなし

聴診器

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コロナ流行でのびのびになっていた新学期の学童検診が始まります。これは学校保健安全法の第10条に地域の医療機関と連携し、児童の健康増進に努めるよう記載されています。小・中・高校迄あり学校医一人では手が回らず地域開業医が全員で学校検診に駆り出されます。その時大切な道具が聴診器です。日頃は内科・小児科医の商売道具で活躍するのですが、この聴診器、フランスのラエネリ医師によって考察されているのですが、フランス革命の激動時代の1816年、医師の診断そのものも革命的にぬりかえたとされているのが聴診器なのです。その後、少し改良が加わり両耳から肺・心臓音を聞く、現在の聴診器に落ち着いたのが1930年、それ以来略々同じ型のものが普及しております。血圧計はデジタル化しているのに聴診器だけは直接臓器の音を聞くいわゆるアナログ直達診断法です。然し、大勢の子供の検診、医師の耳の方が痛くなってくるのです。便利な聴診器だけれどもう少し改良されて良いように学童検診時の思いがあります。

カルテの真実

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現代の医者は患者さんの顔を診ずに電子カルテ(電カル)ばかり見ていると云われることがままあります。紙カルテの時代では筆の運びをとめながら患者さんと対応できたのですが電カルはキーボード作業に忙しいのでしょう。然し、今や電カルも進歩し、紙に描く絵が電カルにそのまま残る時代となり、医学の進歩と共にIT技術も進歩しています。医療の要求、需要が技術革新を生み出しているのでしょう。実はカルテ記載はギリシャのヒポクラテス時代より変わっていません。病人の情報、病気の徴候・症状を記載する大切さを世に知らしめたのはヒポクラテスです。医療の病歴記録、そこから推理できる原因、予後を綿密な観察とカルテ記載の経過と描写によって探し求める洞察力は、まるで緻密な探偵気取り同様に病状展開をみせるのです。紀元前に始まった医療カルテは今もって医療に於ける病気退治の道しるべになっています…が、今の時代、電カルにも新たな義務が加わり作成の真正性、肉眼で見える見読性、法で定める期間の保存性を持つ三原則の時代になって久しいのです。

過去の教訓

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最近、私のブログ、即ち雑文はウイルスに関するものが多くなっています。コロナウイルス感染症が、多くの人々の生活を脅かしておりそれもやむを得ないのでしょうが…。一介の外科医もついつい手元にあるウイルス雑学をながめている自分に気がつくのです。21世紀に入り、突然始まったウイルスによるいわゆる「ジェット機症候群」は交通が便利になり、世界が身近になればなるほど規模の広がりは収束の難しさが見えます。2002年サーズコロナは中国、広東省で始まり、32か国に広がり、スーパースプレッティング事例、今で云うクラスターに相当する院内感染、1年位で終息に向かいました。2012年9月サウジアラビアから始まったマーズコロナは2015年をピークに2019年頃下火になっております。いずれも今もって特効薬のワクチンは開発されておりません。この2つのコロナを抑え込んだのは「手洗い」「うがい」「感染者との濃厚接触注意」の3原則です。今回もこの3原則を厳守することになりますが、特に高齢者や病弱な方は、うがい等呼吸器疾患に注意していくことかと考えます。

不発弾

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コロナウイルスを知るには顕微鏡が大切ですが、顕微鏡の発見者は諸説あるものの、その一人が望遠鏡利用のガリレオとも云われています。然し、同じレンズ利用でも顕微鏡の発達は望遠鏡より50年以上遅れていますが…。あえて望遠鏡との比較で云えば顕微鏡の方がはるかに我々人間の生命維持や前記したウイルスや細菌群達との戦いに役立っているのとも云えるでしょうか?その後、20世紀初頭にドイツのEルスカによって進歩した電子顕微鏡は今まさにウイルス最前線での戦いに獅子奮迅の活躍です。色々なウイルスは我々の世界に何時、作動し壊滅的打撃を与えるかもしれない不発弾みたいなものです。猿から移ったとされるエイズウイルス、コウモリから感染したエボラ出血熱流行は未だ耳新しいウイルス感染症です。未知の不発弾とは云え、突然発生するウイルス疾患は航空機の発達で「ジェット機流行病」と称しても良いでしょう。その不発弾を見つけるのが電子顕微鏡、我々はその価値を今充分認識する必要があるのです。

公衆衛生学

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昨今、マスコミのコロナ報道を読むと、流行の伴いにつれ、日本のリーダーは医療と経済の両立を計り、伝染病専門医は戦いの前線から一歩しりぞき決定権を医療から政治的舞台へ下駄をあずけたよう?に私には読み解けた。この解釈には私の誤解があるのかも知れないが…少し違和感を覚える。医学の概念からは、ウイルスのパンデミックは公衆衛生学の問題と考えるのである。今はどうなっているのか分からないが、公衆衛生学は医師国家試験の中で最も難しい科目であると認識し、悪戦苦闘した苦い経験をもつ。古代からある伝染病との戦いの中心的科学であり、地域社会の民度や力を示す医学分野だからです。これ迄も上下水道、ゴミ問題はインフラ整備につながり、社会、経済、政治をも基本とする医療学です。現在の流れは予防法やワクチン開発に血まなこですが、今や我々の生活環境の中で必需品ともなっている交通手段のあり方をも問われている社会学が潜んでいる事を忘れてはなりません。それにしてもこの公衆衛生学、専攻する学生が少ないのも頭の痛いお話ではあります。

わきがの臭い

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ヒトには古来から視・聴・覚・味・触の5感が備わり、最近は平衡感覚等を含め8感と称し、時代の進化で人の感性は研ぎ澄まされ細分化され、ややこしさを感じるほどです。そのひとつが我々の扱っている「わきがの臭い」、江戸初期の儒学者、貝原益軒は嗅いを香(こうばし)、臊(くさし)、焦(こがれくさし)、腥(なまぐさし)、腐(くちくさし)に分け、西洋でも古代ギリシャのアリストテレスが7臭、1895年オランダのシァダーマーカが9臭、1916年ドイツのヘーニングは6つの臭いに分けています。現在での嗅覚検査は10臭(花香、焦げ臭等)が存在するが、これ等10臭が病的なのかの判断は科学的判断ではなく微妙です。その上最近の社会現象では加齢臭や汗くささは悪臭の位置づけになっており臨床医を悩ませます。日本ではわきがの病的定義も未だ定かではないが、健康保険上は「悪臭著しく他人の就業に支障を生じる場合」となっており、客観的に病的悪臭をどのようにとらえ治療するか?それこそ5感や8感を働かせて悪臭と判断する医師の難治な前提が横たわっています。

医の原理、原則の巻

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父は元々外科学を専攻し、太平洋戦争時は軍医だった。軍医で外科、これだけの経歴でも分かる事だが、少々荒っぽい診療だったのを思い出す。腹部のしこりに「痛みがなければ悪性を疑い、痛みがあれば炎症を疑っておけ」、輸血の交差試験がない時、「献血者と患者さんの血液をガラス皿で混ぜ合わせ濁らなければ大丈夫だ」それがイヤなら点滴を流し続けろ!琉球政府時代、検査装置がなかった当時、医療の原理・原則を除隊した父から教わった。今の時代どこの家庭でも体温計は置いてある。熱があると炎症、化膿を簡単に予想出来る。イタリアのサントリオはこの体温計の活用を広めた医師であるが、16世紀にすでに運動量と食事、体重の関係から今で言う基礎代謝の概念を述べている。人間が1日に食べる量と排便、排尿の他にエネルギー消費量を付け加えたのである。筋肉量と脂肪のバランス、痩せる為に脂肪だけ減らしても栄養バランスは上手くいくものではない!すでに古い時代に医療の原理を唱えていた医者がいたのである。

美容整形なる名前の巻

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日本では整形外科と形成外科、非常に似通った名前で混乱しますが、更に美容整形なる名前がマスコミにおどると本来の整形外科医は傍迷惑だと憤慨する事は多い。そもそも整形外科学は医聖と呼ばれるヒポクラテスが始祖と言われるくらい古い歴史を持つ(神中整形外科書)。日本における整形外科は明治期に始まり英語記より当初「矯正」とされ、その後、東大田代教授が矯正の意を分かり易く「整」と考え、整形外科と名翻訳になっている。然し、戦後になり、美容整形ブームが始まる。当時の三木整形外科教授がこの名前に異を唱え、米国では「Plastic Surgery」が正しいのを渡米され学んでいる。その結果、東大内にPlastic研究会を作るが、うまい日本語訳が浮かばず仮りの名前として「形成外科」と称している(元順天堂大丹下教授談)そこからさらに美容外科なる標榜科が生まれているが、美容整形はマスコミ用語(?)正式名称は美容外科になる。似た名前の混乱は厄介さが増し、結局迷惑を被ってしまうのは患者さんである事は間違いない。

ヒポクラテスの教え

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医聖と言われるヒポクラテス、今もって彼の教えに納得させられる部分は多い。例えば医師の能力、判断力の許す限り患者さんにプラスとなる治療法を行い、有害公正でない方法は行わない事。患者さんの秘密は守る事などすべては現代でも通用する教えです。これが第80回古代オリンピック、即ち紀元前460年頃に生まれ育った医師の経験から生かされたいわゆる「ヒポクラテスの誓い」の重要部分でしょう。特に哲学的思想家と言われる彼の教えは今でも強烈に私共の悩みのひとつを明確に示唆しています。そのひとつが医師のカルテ記載です。すでに紀元前において病気治療は正確に患者の症状、既往歴を細かく記載し、これが診断に役立ち良い治療法の基礎になるなどは正しく進歩する電子カルテに日々振り回されつつ、我が身を反省します。最後に彼の要約した以下の教えは私を震え上がらせました。「人生は短いが技術習得の道は長く、その上チャンスは逃し易く、試みは失敗する事が多い。医療の判断は難しいことばかりだ!」

細菌学と外科医

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外科学の進歩は非常に興味深く、ユックリ進歩し現在に至っていることが、医学の歴史書を読むと良く分かります。輸血や解剖学は外科進歩の基礎になっているのは分かりますが…顕微鏡の発達も見逃せません。裸眼ではみられない無数の小さなムシの存在、17世紀初頭、レンズを組み合わせた顕微鏡開発者はオランダ商人アントニーです。その後、細菌学のルイ・パストールがムシは病原体である事を証明します。汚染を起こすムシは空気中のどこにでもおり、多くの病原体が発見されます。これをすぐに外科治療に応用したのが若き外科医ジョセフ・リスターです。当時「手術台に乗せられた人はワーテルローの戦場にいる兵士より死亡率が高い」と言われていた現実をリスターはパストゥール理論を応用、傷の消毒を徹底させ、更にフォン・ベルクマンは手術室や外科医の手術服まで無菌にと述べ外科学成功の道を開いていくのですが…、然し現在は細菌より小さいウィルス対策が急を要し、英知が必要な時代になっています。

化膿止め

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抗菌剤は化膿を抑えるクスリで良く知られていますが…。実は、私共は色々な化膿性皮膚疾患を診ておりますが、抗菌剤の使用をどうしようか?いつも悩まされます。先日、別用で韓国へ行った際、公衆衛生関係の医師に質問を受けました。韓国では抗菌剤が効かない化膿菌が沢山出て困っているが、日本の対策は?と問われました。私はふと過日に講演でお聞きした琉大内科の藤田教授や細菌検査・上地先生のお話を思い出しました。化膿止めの効かない細菌は400万年以上前からあるが、4〜5年前から新しい抗菌剤が発見されておらず、これからは癌対策以上に化膿菌への対応は大変になるそうです。フレミングが青カビから作ったペニシリンは有名で、その後幾多の抗菌剤が発見され病気の人を救ってきた事は事実です。然し、昨今、豚や鳥などのウィルス感染症は人へも影響を及ぼしつつありますし、細菌自体が世界中を旅行する時代になって来ました。その為、日々背中の大きな化膿巣を前にして化膿止めを使わない治療をどうするか?思案、投首の小外科医がいるのです。

脱毛の歴史

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毛は必要部分と不必要部位があり、後者は特に美的条件を主体としますので皮膚に傷をつけず脱毛可能なポイントが重要だったのです。実は女性にとって関心高い脱毛の歴史は非常に短い臨床しかないのです。1983年日本の小林敏男先生が皮膚を焼かず毛乳頭やバルジ部を焼却する絶縁針脱毛が開発され、福音がもたらされる第一報になります。同じ頃注目されたのがハーバー大学のロック・アンダーソン教授のレーザーによる「選択的光熱治療」でした。周囲の組織を焼かずに目的とする色素を破壊する理屈です。その後、彼のお弟子さんグロスマン教授が1996年ルビーレーザーによる脱毛を試みておりますが、色の黒いアジア人は皮膚の色と毛との区別までは出来ませんでした。その数年後、日系3世のフルモト博士が色の黒い沖縄の方でも火傷を起こさず脱毛可能なアレキサンドライレーザーを開発、爆発的人気を得てやっとレーザーによる脱毛技術の開発が始まったのです。最近は痛みの少ないレーザー脱毛など脱毛技術の進歩に目を見張る現実にびっくりの半世紀があります。

過去の物語

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iPS細胞から作られた角膜移植が成功したとのマスコミ報道があった。再生医療は新しい治療法として世界でも激しい開発競争があり、日本は国を挙げ支援し世界のトップを走っている事実があります。一方では厳しい批判もあり、少なくとも1年間は厳重な追跡調査がこのチームにも義務付けられています。また、今回の発表も約束事として学術論文として著名な学術誌にアクセプトされた1ヶ月後のマスコミ報道でしょう。この様な輝かしいニュースに接するたびにふと思い出されるのが過去に大きな物議を醸し出したスタップ細胞騒動、iPS細胞以上とされ生命科学分野トップのネイチャー誌にも掲載されました。内幕は非常に複雑な経緯をたどっていますが筆頭著者O女史のみの責任ではなく、重要な研究ゆえの勇み足がチームにあったのでしょう。学術論文は発表者の次に記載される著者指導名、いわゆるシニアオーサーの権威が意義を持ちますが、非常に微妙な立場に立っていたのがエプロン姿の彼女であったのかも知れません。ひとつの成功の影に一方、埋もれた物語がある医学現場です。

外道から正道へ

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明治以前の日本では内科を「本道」外科を「外道」称していたらしい。内科は正しい医療、外科は少し道を外れた医学と思われていた節がある。16世紀頃のヨーロッパでも大きな傷を焼きゴテや沸騰する油で焼灼していた話を聞くと当時として止むを得ぬとはいえ、忌み嫌われていた感がある。その中でフランスの理髪師出身アンブロワーズ・パレ医師は、傷は焼くのではなく縫合すれば良いのだ!と提案したのは17回の従軍生活中、外科治療で苦しむ兵士を数多く診、観察した結果なのであろう。その後、彼は傷の中にある鉄砲の弾を抜く鉗子を考案したり、現在の外科医が用いる絶合糸の基本を作り上げている。彼の有名な名句「吾は包帯をし、神がこれを癒し給う」この言葉は邪道と思われがちな外科を正道に導いてくれた我々の恩人と称しても良い。弛まざる過去の多くの外科医が正しい道を示してきたからこその現在の外科学である。ひるがえって昨今の美容外科はどうだろうか?世間様から一部とはいえさげすまされている部分はないだろうか?述懐と共に反省する所はまだまだ多い。

ハンセン病判決に思う

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今年の6月、熊本地裁はハンセン病隔離政策による家族への差別被害を認めました。患者さんはもとより家族への風評被害をも認めた訳です。私も子供の頃ハンセン病への恐怖を持っていたのは、顔や指変形の噂を聞き及んでいたからです。実は1965年頃沖縄県における患者数は日本全体の半分を占めています。この時代の隔離政策は戦後の米国統治時代にも続けられておりますが、1958年には米国衛生副支部長マーシャル大佐は沖縄医学会でハンセン病の隔離をやめ在宅治療を示唆しております。その後、日本の厚生省(当時)勧告でやっと患者さんの職業補導等が実施されていますが、愛楽園の犀川一夫園長は、同病は隔離ではなく一般診療を続けてこそ治せる病であり、本土より早めに在宅医療への制度変更を推奨されています。その他、県内の医師で真栄城優夫先生は麻痺手、伊波恒夫、嶺井進(嶺井病院)先生は鑑別診断、若狭で開業の山城則亮先生は下肢治療法につきご研究をされ、敗戦直後、県医療の貧困時代に赤ヒゲ的医師がおられた事に後輩医として誇らしくも思います。

コクラン共同計画

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将棋も囲碁名人もコンピューター(AI)君に勝てなくなってきた時代、それはAIが過去の実戦から最善手段を蓄え戦う結果が導き出されたのでしょう。医療の世界でこれに似たのが根拠に基づく医療、いわゆるEBM(Evidence-based Medicine)です。病気という人間の大敵は将棋以上に無数の手法を持ち、人間が勝つのは容易ではありません。闇雲に打つショットガン治療は、医療費や時間の無駄になります。最善で有効な治療を絞り切る方法をみつけるのは過去に積み重ねた治療法を吟味し、最良の結果を臨床に生かします。更に治療情報には常に新しいものを加え、治療手技を作り変え、伝えていく。最終的には、選び抜かれた医学的根拠の高い治療を使う…このコンセプト理念が1992年英国で始まったコクラン共同計画です。賛同する世界のボランティア医が非営利法人で始めていますが、将棋のようにAIが人間を打ち負かすのではなく、人間とAIが共同で病気を退治する早道を探す作業になります。1972年に出版されたコクラン著書には「リスクを排除し、効果の高い治療」を目的にと強調されているのです。

再生医療

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 再生医療は山中伸弥先生のiPS細胞成功により、2014年は日本で再生医療元年と位置付け、国を挙げて臨床応用の支援策がなされております。それに伴い、まがい物を排除する法規制も実施されています。ちなみに山中先生のiPS細胞作成が2006年、8年後にはノーベル医学賞の受賞です。どのような優秀な発見でもノーベル賞の対象になるには研究から20〜30年かかるものです。いかに多くの専門家がこの研究に期待しているのかが分かります。そして既に各種の臨床応用が再生医療の分野で始まっていますが、実は第一号の再生医療の臨床は1983年夏、大火傷を負った二人の子供に自分の皮膚を増殖させた培養皮膚を移植し成功させているのです。アメリカのハワードグリーン先生は10年前から研究されていた組織培養を臨床に応用したのです。一命を救われた二人の子供は成人し再生医療黎明期の生き証人としてお元気なはずです。然し、再生医療はまだまだ解決しなければならない難題も山ほどあるのは確かですし、果敢に挑戦する医学、医療の明日に期待したいと思います。

観察

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外科系医師を悩ます感染症、術後順調に経過が進んでいるように見えても手術部が感染に見舞われるとメスを入れた結果が不満足に終わります。術者が手術内容以上に怖れ、気をつけていかねばならないのが感染対策です。また、沖縄ではおできで来院される数の多さにもビックリします。日頃の養生・清潔感が足りない問題でもないように思います。暑いので小さな感染でも増悪が早い外的要因も多い感じがあります。一方、抗菌剤使用もむやみやたらな服用を慎む傾向になってきたのは喜ばしい事ですが…。感染菌の種類を早く知る培養技術の進歩は、我々小さな外科医にとって大きな支えとなっています。ロベルト・コッホや新千円札の北里柴三郎等、細菌学者の功績は万感に値します。パストゥールは以下の名言を残しています。「観察分野での好機は準備を怠らない者にのみ訪れる」細菌や微生物との戦いは人類にとって見え難い相手だけに、これからも試練が続くものと考えます。その意味、外科医にとって手術と術後ケアはセットであり、常に観察を怠らない事につきそうです。

脚気論争

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 医学界で文豪森鴎外と北里柴三郎の仲の悪さは有名でした。北里は破傷風菌培養や血清療法、画期的な治療法を確立、世界的な医者です。一方、森は山椒大夫や舞姫を書いた小説家で有名ですが陸軍の軍医、北里と森の脚気論争は10年近く続き、脚気はビタミンB欠乏症と結論付けられ北里派の主張通りになるのですが…。北里が自分の恩師の「脚気菌」説を否定した事から森との確執が始まり、陸軍と海軍、文部省と内務省、イギリス学派とドイツ学派の対立が底辺に横たわる逸話もあります。この論争で興味深いのは私情を挟まず、やむなく恩人の学説に反対した北里、反して安寿と厨子王や舞姫の小説の如く、いかめしい印象にしては人情豊かな森鴎外、お互いの性格の違いを読み解く時、何となく人間臭さをみるのです。そこに福沢諭吉が登場「政府を信じるな、いざという時資金を貯めておけ」北里柴三郎に助言をした明治の時代、学術論争を通し歴史の深読みをするのですが、新年号の時代どのような人物が日本国を導くのか(?)楽しみと一抹の不安、去来する思いは一杯です。

外科医とは

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「保存的手術」を提唱したのは19世紀中頃のイギリスの外科医、ウィリアムファーガンソン。元々解剖学の得意が転じて外科医となっています。特に唇裂・口蓋裂、今で言う所の形成外科の名医、手術の早さでも有名です。彼の手術は見学者が瞬きしていると肝腎部分を見落としてしまうと言われていたほどです。又、多くの外科器具を考案し、ライオン鉗子・開口器などの補助器は外科医を助けております。どんなに自信と腕があって必要以外の事はメスを振るってはいけない彼の教え、そこにこそ保存的手術の価値が見い出されます。同じ頃、イギリスの外科医にサ・ジェイムズ・バジェットがおられます。乳腺のバジェット病を最初に発表した医師ですが、外科医でありながら得意なのは診断技術であるとされているのは興味を覚えます。この様に過去に功績のある外科医の足跡を読むにつけ、我が身を恥じること都々です。美容を目的する外科手技が他の多くの外科医からとかく胡散臭く見られる視点、余計な所にメスを入れているのでは…今日も反省を心に手術場に向かっています。

Zoograft

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現在、医療では動物の骨や皮膚を処理し人間の欠損部への多種移植が時々に試みられています。本来は自分の組織利用が理想的ですが、やむを得ない時の代用に用いるのです。一方、人間は昔から人魚やフェニックスなど人と動物を兼ね合わせた架空動物を創造させたり、最近ではロボット世界で近代的空想上の生き物が登場します。動物同士の一部を移植するのをXenograft、動物の一部を人間に利用するのをZoograftと分けるのですが、1955年の外国形成外科の本にクレーンウィンケルの手紙と言う面白いお話しがあります。ロシア貴族が戦いで欠損した頭蓋骨に犬の骨を移植されたのです。手術は成功したのですがキリスト教会から犬の骨を持った人間は異端であり、破門となるのですが…その貴族は協会の破門より頭に骨がなくても良いので移植した犬の骨を除去したのです。この古い手紙を紹介したギブソン医師はZoograft成功より当時のキリスト教会の権力の強さを強調しています。今ではそのような事もありませんが、いずれにしろ異種移植の道程は長い苦難の歴史が横たわっていたお話でしょう。

高嶺徳明

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高嶺徳明、中国名を魏(ウイ)士哲と称されています。彼が有名なのは1804年の華岡青洲全身麻酔より100余年前、1689年に沖縄にて全身麻酔を施した業績にあります。琉球大学医学部構内には1993年に建設された顕彰碑があり県内の医師なら良くご存じの事実です。華岡青洲の全身麻酔は世界初とする説があり、その説が正しいと高嶺徳明こそ世界初となりましょう。然し、今だ麻酔薬が何であるか推測の域を出ていません。一方で施した唇裂に関しては形成外科や麻酔医の歴史探訪や高嶺宗家に伝えられる「魏姓家譜」等から推測されています。この大切な徳明の資料が過去の大戦で焼却されず残っていたのは沖縄戦中、高嶺家のご努力にあり本当に感謝、感嘆します。実は徳明が施行した王孫尚益への手術は尚益が「アガー」と言った為、傷が開いたとも言われますが、表層のみの縫合、当時としてはやむを得なかったとも言えます。日本で最初の唇裂手術は1687年の中村宗璵です。遅れて2年後の徳明の手術、我々は偉大な形成外科の先輩がいた事に誇りを持っています。

グレイ解剖学

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外科医は必ず1〜3冊の解剖書は持っています。解剖学が分からず手術など出来るものではないからです。日本では杉田玄白等の解体新書が初めてで、その後はドイツ解剖学が主流となりましたが、難解とされた一時期もあったのです。現在、解剖書で分かり易いのはグレイ解剖学です。現代風に色彩も綺麗で模式図も見事です。更にはレントゲン・MRI像の比較解剖もあり本当に読み易くなっています。用語統一を含め、編集するに当たり100人近くの専門家がお互いの知識を寄せ合い作り上げたのかが良く分かります。編集者に日本人もおり、人体の解剖は正に人種を問わず同じ作りなのは当たり前ですが面白い面があります。さて…このグレイ解剖学のヘンリーグレイ先生は1861年34歳の若さで天然痘に罹った甥の看病後に感染して亡くなっています。彼が初期に書いた解剖学と現在のものは全く違いますが、解剖のデッサン力や明瞭・機能的・高品質の挿絵は多くの外科医の心を掴んで離さず、今でも誇り高きグレイ解剖学という名で伝統が受け継がれている外科医のバイブルです。

血圧のお話

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血圧を計る単位は、圧力計ゆえ台風と同じヘクトパスカルで表した方が正しいとも言われています。又、水銀圧で計っていた血圧も水銀が取り扱われなくなり、最近では持ち運び便利な血圧計も出回っており、通常は二の腕で計っていたものが指や下肢で計るものも出て来ています。実は動脈の圧は大きな動脈も小さな動脈もあまり違いはないとされ二の腕以外でも大丈夫なのです。大切なのは毎日一定の時間に計り、日々の血圧変動をチェックすることが重要なのです。さて、最初に血圧を測定してみようと考えた人?その人は医師ではなく牧師さんだったのです。イギリスのヘールス牧師は樹木の樹液がどの位の圧で植物の先端に届くのかを挑戦したのですが上手くいかず、結局、馬の頸動脈に管を通して心臓から流れる動脈血の高さを計ったのです。その時、管の中の血液が心臓の拍動で上下するのを観察していますが、馬に貧血を起こさせると管中の血液が下がる事も調べています。その後、イタリアの小児科医リバロッチが、現在皆様がお使いのカフ付き血圧計を考案し現在に至るのです。

ナポレオンの友人

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ナポレオンの友人にラレー男爵がいた。「私が知る限りでは最も徳の高い男である」とナポレオンは遺書に書き残しているほどの彼である。フランスだけで有名な外科医ではなく、敵国にも知られている男であった。ワーテルローの戦いで捕らえられ銃殺刑を宣告された彼だが、敵国の外科医がラレー医師に気付いている。敗戦間際まで傷病兵の治療を続け、捕らえられてしまったのであるが、イギリス軍の外科医はラレーの外科学の講座を聞いた事があったのである。敵国将軍の息子も治療した事があるドミニク・ラレーは、その後丁重な扱いを受けているが、彼が当時考案した医療業績は今も我々は時に目にしている。救急車の元祖がラレー男爵です。二頭立・四頭立、二種類の野戦救急馬車で、戦場に倒れている傷病者を敵味方無く収容し、後方の診療所で手当を続けたのである。また、寒いロシアでは冷却が化膿を防ぐ事を発見している。彼の晩年は大変な栄誉と名声を勝ち取っているが、片時も忘れない傷病者への思いがあったのであろう。医者として羨ましく思う前に見習う事が多い。

痛み対策

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医療の歴史は医者のみが書くのではありません。当然、医療の物語にはその時代の医療技術のレベルが述べられているので参考になる事があります。私は外科医の端くれ、自分の専門書である形成外科の書を読むと共に古い外科医の話が書かれた書物をチョイ読みをします。ボッカチオは14世紀の詩人ですが彼のデカメロンに次の事が記載されています。「腐った足の骨を取らねば死ぬことになる、骨をとれば回復するが死んだようにならねば手術はできない」麻酔が全く無かった時代のお話である事はお分かりでしょうか?ちなみにデカメロンとは10×10話=100話、日本でいう所の千夜千冊に類するものですが、インフォームドコンセントが不十分な時代であってもきちんと正直に医師は患者さんに重大なリスクを述べていた事が分かります。麻酔の無かった頃のお話にしても外科治療と痛み対策は今でも我々にとっては重大な事柄として捉える事が出来ます。痛みは患者さんを苦しめますが、痛みを与えねばならない医者もまた神経の疲れを覚えるもの、いつの時代も普遍的真理です。

日曜日の朝

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日本の伝統的作法である正座はお茶や武道などでは必須の姿勢です。然し、長時間後の足のシビレは厄介です。原因は圧迫による下肢の血流障害から一時的神経麻痺を起こすのですが、このシビレ感、戦前はshibireと外国語にもなっていた時期があるほどです。当時、欧米では正座という習慣がないので、シビレ感覚が伝わり難かったかも知れません。実は、上肢にも神経圧迫による一時的麻痺があります。下肢の場合は坐骨神経の末梢部に来るのですが、上肢の場合は橈骨神経と称し、特に拇指付近へのシビレを生じます。この上肢の一時的なシビレ感、時々に洒落た言葉で「土曜日の夜の麻痺」とも呼ばれていますが、彼女を腕枕にして寝た翌日、彼氏の腕がシビレ麻痺を起こしていることから来ているのです。翌日が日曜日なのでユックリ長寝をする訳ですが、その時彼女の頭が上肢の橈骨神経を長期に圧迫していたのでしょう…。いずれにしろウイルスによる神経麻痺であればきちんとした治療をお受けにならねばなりませんが、彼女の頭によるものですと数時間で消退するのが普通でしょう。

再生医療の現実

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2014年、日本で再生医療等安全確保法が成立、再生医療元年と言われるようになりました。背景には京都大学の山中伸弥教授のiPS細胞の成功による事が大きいのですが、幹細胞が自助的に病気の損傷部分へ向かう一種の自動誘導メカニズムによるものが主体となります。骨粗鬆症・関節炎・アルツハイマー病等、難治性の疾患が治療出来るようになるのは明らかに朗報と言えます。然し、世間には再生医療や幹細胞と冠をつけた治療法が山ほど出現し見逃しに出来ない現実があります。偽物を見分ける専門家の眼力がそこには必須となり、その為に法律の規制が設けられているのです。「幹細胞」の用語は1868年ロシアのアレクサンドルによって名付けられ、あらゆる細胞に変化する胚性幹細胞は、一時米国ブッシュ大統領によって研究を阻止され、2009年にオバマ大統領により研究の解禁がなされた政治的背景も垣間見えるほど、医の倫理に接触しかねない面もあるのです。日本で厳しい法律が出来たのも偽物の横行ですが、世界に誇れる再生医療の忌わしい現実を排除したいものです。

過去の資料

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 たまたまではありますが、琉球医学史に目を通す羽目になり、資料探しに国会図書館や県公文書館にお世話になった。積み重ねた莫大な先輩医療人の史料は後輩医師にとっては宝の山と言える。形成外科医の私は高嶺徳明業績や戦前・戦後のらい患者さんへの外科医の取り組みに興味を持った。後者は後日に機会があれば述べてみるが、今回は高嶺徳明の麻酔・唇裂手術について記してみる。彼の碑は現在琉球大学にあってなお彼の足跡を示す新資料が望まれており、これ迄も東恩納寛淳、金城清松両先生が調べあげた資料や、本土側から麻酔医の松本明知先生、形成外科医の難波雄哉、星栄一先生が麻酔の内容・唇裂手術の詳細を述べています。松本先生は高嶺家にまで出掛け口述された史料を検索されていますが、戦争で焼かれてしまったのか?貴重な沖縄の医学史に空白部分が生じているのは残念です。特に全身麻酔法の足らざる部分、唇裂術式・術後固定法・結果があやふやなのは歯痒い思いをしますが、同時に記録が後世に対し如何に大切な事かを認識させられた、今回の学術検索でした。

ルノワールさんのご病気

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 ルノワールは1800年代フランス印象派の巨匠、豊潤で官能的な「水浴する女達」は代表的作品のひとつでしょう。絵画に関心のない私ですが、親近感を持ち彼の画風を見るようになってきました。画家の時代背景や心情を解説してもらうと絵のすごさを理解出来る時がありますが、彼はリウマチに羅患後、描画に輝きを持ったとされる画家です。リウマチは自己免疫疾患で、自分の関節内タンパクを異物と勘違いをし、攻撃を加えるので指の関節が障害される病気です。然し、その動かしにくい手指で名画を次々に描き上げた晩年の作品は絵の美しさと共に、彼の執念を垣間見る思いです。実は、私もルノワールさんとは同病です。原因は分かりませんが、内科の主治医にリウマチと診断され現在治療中ですが、彼が活躍した100年前と違いリウマチは寛解出来る病になっております。名画の巨匠と比較する事自体不遜なのですが、今の時代に生きていて本当に良かった、少なくとも外科医として指機能は大丈夫ですし、改めて自分の指を診ながら、彼の画風と共にこの印象記を書いてみました。

細菌戦争

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 外科治療、最大の懸念は術創の感染です。その為に術後観察は大切な外科医の仕事となります。細菌感染には局所の赤味・腫れ・熱・痛みの4症状に、機能障害を加え5徴と言われます。初期症状の赤味を見逃さない事ですが、炎症から化膿へ進みますと抗生物質のみでは治療が難しくなります。特に抗生物質には感染菌に感受能力があります。細菌と戦える抗生物質でないと治療が上手くいきません。つまり抗生物質の「抗生」とは?同じ地域に2種類の生物がいると一方が阻害され育たない事を称します。やや人間社会にも似た様な現象がありますが、細菌の世界では繁殖しようとする感染菌をカビという抗生剤が抑え込む作用を称します。昨今は抗生物質が抗菌剤という名前になりました…が、いずれにしろ感染菌に対し、優位性のあるものを選択していきます。又、抗菌剤は予防薬ではありませんし、ウイルス性の病気やインフルエンザには効果がありません。その為、今年から保険治療では子供さんへのむやみな使用をしない事…など、保護者のお母様に伝える事になっています。

消毒の大切さ

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 日本では今やどこのトイレにも消毒薬は置かれています。病院でも外科手術前、徹底的に手洗いの手順を若い医師に教え込みます。手術による感染を防ぐ意味があるのは当然ですが…。実は過去に多くの悲劇があって常識化されたことを忘れてはいけません。消毒法が確立する18世紀以前は沢山の患者さんが術後感染でお亡くなりになっています。特に産後の感染が医師からと分かるのですが、医師自身が犯人ですから苛まれ自殺した医師もいたのです。「手洗いが大切だ!」推奨したガンメルワイス医師も自分自身が原因だった事に反省、予防対策を強調しております。然し、この手洗法は当時の権威ある教授から冷遇され、彼は精神的ダメージを受け、皮肉なことに感染症でなくなっています。今では当たり前の消毒法も当時では受け入れ難き医学常識であったかも知れませんが、同時に現在非常識と考えられている医学常識の中にもひょっとしたら未来の常識が潜んでいるかも知れないなぁ〜。私はそう思いつつ何処かしこにある学術研究に顔を出し、自らの心を洗い直している所です。

医療の物語

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 古代から伝わる名医の物語、それは正しく感慨深い物語である。内容は美辞麗句や苦労話ではない。失敗を繰り返し次第に良い治療に結びつけた話、偶然から成功を導き出した点滴話もある。医者の功名心や反対派との確執など毎度である。医者自身も人間性に溢れている物語であるからワクワクするが、この物語のもう一人の主役は患者さんである。この世で最初に卵巣手術を受けたクロウフォード夫人は60マイルも離れた山道を馬で通い成功した。エフレイム外科医の名誉は彼女によって得られたのである。但し、3例目の患者さんは成功していない。モートンがエーテル麻酔で初めて抜歯した患者さんの名は、エベン・フロスト。彼は「目が覚めた時、抜いた虫歯を見たが、手術中全く痛みを感じなかった」この表現が逆に麻酔医の評価を蘇らせ、更に医師の奥様が両者の不安状況をきちんと記載していたからこそ、後世の医師は貴重な手掛かりを得たのである。 どのような成功も一人では成し遂げられないことは医療でも同様であり、だから興味深い事が沢山側面にある名物語なのである。

嗅覚

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 最近のテレビCMで多いのが臭い消し、消臭剤の宣伝…のように思いますが?嗅覚に敏な日本人と言われ、日常でもトイレや排気ガスの臭い、タバコ臭がこもったホテルのお部屋は避けがちになります。然し、お年寄りに対する加齢臭や若い方にワキガの臭いを強調するCMはいただけない感じもあります。宣伝では特に弱い相手に対する配慮は必要でしょう。体臭は個人的特徴ゆえ、それを好ましいものではないと強調するのは思春期の子供や老人にとって、思っている以上に強いダメージを与えるのかも知れません。欧米では体臭を良い匂いと捉える傾向もあります。反対に万葉集には「野の草ばかり刈らないで臭い腋草(毛)を刈ってくれ」もみられます。日本の古い歴史には嫌悪すべき表現「胡臭」があり、シャレた言葉で「あり香」などみられるのです。においは捉えにくい感覚、正しくは「嗅」覚ですが、専門用語も混乱中。漢字にも悪い香りの臭、良い香りの匂があり、英語でも香りはSmell、臭いはStink、匂いはFragrance、古今東西香りの区別は、客観的尺度計が少なく人間らしく?思いませんか?

形成外科と作図

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 形成外科の特徴的手技に植皮があります。外傷や先天的変形を修復する為には皮膚の足りない部分へ他からの皮膚移動でカバーしていかねばならないからです。形成外科の本格的発展はやはり第二次世界大戦後とみて良いでしょう。世界的に戦傷者が増え、その修復を外科的部門が担うことになり、この時点で種々な外科手技が発展して今日に繋がってきているように思います。その意味でニュージーランドのハロルド・ギリースの果たした役割は大きく、1955年の第一回国際形成外科では筒状皮弁という皮膚植皮法を発表し喝采を得ています。世界的に近代的・本格的形成外科領域の始まりと称しても良いが、その20数年後に沖縄でも形成外科らしい技術は発展し、美容整形、いわゆるPlastic Surgery(形成外科)の名の下で植皮術は行われています。前述したハロルド・ギリースのもうひとつの功績はスケッチが上手かった点にあります。解剖図や手術法の経過を分かり易いデザインで後世へ伝えた技術は特筆されますが、今でも若き形成外科医に対し、描写画の大切さは教育の中で強調されています。

原爆の乙女の巻

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 日本形成外科領域の歴史には大切なエポックのひとつがあり、「原爆の乙女」というニュースがありました。1950年頃、長崎大の灘波雄哉教授は原爆被曝者の追跡調査をしている時、米国ではプラスチックサージャリーという医療分野があるのを知ります。そして彼はニューヨークのバスキィ先生のところで形成外科を学んでいくのです。その後帰国して日本の形成外科を築いていくのですが、長崎で被爆し、ケロイドを負う女性逹を治療していったのです。これは形成外科と美容外科の始まりと言っても良いでしょう。もうひとつのお話があります。ケロイドを背負った25人の原爆ケロイドの女性逹を、米国で治療させる為に岩国の米国基地から輸送する大型輸送機に対し、出発間近にワシントンから電報がきます。「米国行きを中止せよ!」との電報です。この命令は反核運動を危惧していた事は確かでしょう。しかし、極東軍司令官ハル将軍は即座に「老眼で電報が読めぬ」と拒否し、輸送機を出発させたお話は有名です。どこにでも気骨ある人々は存在するものだ!感じ入る物語ですネ。

地名病

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 最近もあるのかどうか?定かではありませんが…復帰前、東京では「沖縄病」という病気が流行していました。症状は軽いものから重度まであったように記憶しております。本土から沖縄に転勤し数年後、東京に戻ると喧騒が煩わしく思う症候群を指していたようです。医療関係者もおられました。本社から再三の呼び寄せに応ぜず、定年間近に仕方なく帰ったのですが…重症な「沖縄病」の彼は企業戦士になれず結局埋もれていきました。この様な病名(?)の付け方は特殊(当然病気ではありませんが)ですが、時に病気の名前に地名をつける時があります。例えば「香港風邪」「スペインインフルエンザ」などですが、これはその発症地を源につけられており、止むを得ないかも知れません。然し、悪意でつけられる時も過去はありました。梅毒が多く発生した「ナポリ病」など他地域からの嫌悪が含まれていたようです。遠い昔「琉球瘡」もさげすみの一端があったのかも知れませんが…今で言う「沖縄病」日本全国に蔓延させ、「何とかなるさ」で過ごしてみたいものですネ。

予防対策

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 見えない敵ほど恐ろしいものはない。医者と細菌との戦いがそれだった。北里柴三郎はペスト菌、志賀潔は赤痢菌を発見、目に見えない宿敵の弱点を見つけ出し、勝利していった。然し、その後も目には見えない敵は存在した。口蹄疫という家畜の伝染病は有名である。罹ってしまうと畜産業は大打撃であった。数年前、宮崎県養鶏場の鳥伝染病は目新しい。今でこそ原因は鳥インフルエンザウイルスと断定出来るが、ウイルス病の概念がなかった時代は顕微鏡では見つけられず究明は容易でなかったのである。 素焼きの濾過器でもすり抜ける極小の病原菌がいるらしい…と想像は出来たが、電子顕微鏡で病体を探しあてるまでの苦労は並大抵ではなかった。日本の偉人、野口英世は黄熱病というウイルスに一部勝利したが最後に個人的には敗れている。尊い犠牲を払って戦った見えない敵との戦いである。さてさて、見えるようになっても毎冬インフルエンザウイルスに泣かされている凡人であるが、偉大な先人に敬意を表し、各自の予防対策は必須であろう…ゴホンゴホンしながら考えた。

気まぐれな奴

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 真菌は細菌ではありませんが、人間様を時々に悩ませます。日本人の国民病と言われる水虫(足の白癖)は真菌が犯人です。悪さをする真菌もいますが、一方ではペニシリンやストレプトマイシンなどの抗生物質を作り人間を助けたりします。カビやキノコも真菌で、ガビは味噌、醤油、チーズの源です。日本の松茸、フランス料理のフォアグラなど高級料理にも使われ気まぐれです。人間の仲間になったり、敵になったりするので「カビも使いよう」になるのです。一方、「日和見的な奴」とも言われております。お天気次第の気分屋なところがあるのですが、時々に気分を害し人にとりつき感染病を起こすのです。これを日本のある学者が「日和見感染症」と名付けました。実に見事なネーミングです。真菌などの微生物は通常、人間に害を与えず我々の皮膚表面にいっぱいついている、いわゆる非病原の雑菌なのです。この非病原菌、日和見ですから抵抗力が落ち込むと気まぐれに強力な病原菌になって人を悩ませるのです。我々は日頃から健康に気をつける必要があるのが、お分りでしょうか?

「病歴」と「プラトニックラブ」

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 病歴とは、アナムネーゼとも呼び、罹患した病気の歴史である。治療前、患者さんからの聞き取り調査を意味し、そこからおおよその病気診断が推測され、治療の方針が決定されるゆえ大切である。医療の大事な基本的仕事の一部にもなっているアナムネーゼ!!実はこの用語を作り出したのはあの有名な哲学者プラトンである。彼は80歳の生涯に1度も結婚していない。即ち、自ら作り実践したプラトニックラブの思想家であるが、一方でアカデミックな大学を創設し、その中でアナムネーゼという言葉を作り出している。理想を追い求め続けたプラトンとは違い、我々は愛だの恋だの現実に振り回され続けているが…。元々、アナムネーゼは「思い起こす」と定義されている。いわゆる恋人を想い起こすプラトニックラブとは類似点があるのである。プラトンによれば、この想起(アナムネーシス)天上界の美しいものを考え表現している。地上界の医者共、どれだけプラトンの熱い想い引き継ぎが出来ているか?不明であるが、我が身の悪しきアナムネーゼを振り返り、驚愕を禁じ得ない。

樋口一葉さんのなぞ

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 お手元に5千円札があるのなら取り出してみて下さい。樋口一葉さんがおられます。定型的な日本人古来の上瞼である事がお分かりになると思いますが、樋口さん美容外科では大変な人気です。努力家で「たけくらべ」や「にごりえ」などの小説で有名ですが…・実は彼女の瞼に関する発表が信州大学の松尾教授からあったのは約10年前です。その後、NHK「ためしてがってん」でとりあげられました。彼女の戯曲に肩こりや頭重感の記載があり、ひょっとして一重で瞼が挙がりにくいのは眼瞼下垂があり肩が凝ったりするのだろうと推測したのが松尾先生です。現代の医学から歴史上の有名人のご病気、死亡原因を当てるのは歴史のなぞをときあかすひとつの源になるのですが…。松尾氏が一葉さんの一重のなぞを解き明かした結果、毎日のように彼女に似た女性が当院を訪れるようになり、その為、樋口一葉さん今や美容外科で人気の的となっているのです。はたして彼女が二重だったらこのような事にならなかったのか?私は5千円札、しげしげながめている所なのです。

日射病注意

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 そろそろ、暑い夏。ビールの美味しい季節ですが、日射病に気をつけるシーズンでもあります。時に蒸し暑い夏ですと体内の水不足は独居老人にも起こりやすく、時々マスコミでは脱水症と呼称します。英語ではヒートストローク、日本語訳は熱打病や熱射病でしょうか?どちらの名も原因と症状を言い当てていますが、国際分類では熱痙攣や熱疲労などの区別も加わります。これ等の分類法は急激に発生する日射病に対する、重症度の判断、つまり急を要するのか?見極めていくよすがになります。日射病は体温が上がり、顔色は赤くなりますが、反面、熱疲労は平熱で青白く発汗を伴います。但し、現在は国際分類より日本救急医学会の分類が分かりやすく、先ずは涼しい場所での休憩や水分補給が第一で、頭痛等が起こるとすぐに救急車のお世話にならねばなりません。ビールのうまい季節ですが、くれぐれも深酒、翌日のゴルフ・水泳には気を付けるべきでしょう。今回、私自身が救急隊の皆さまにお世話になるのはみっともないので、自戒の念を込め暑い夏のひととき、書き綴ってみました。

当院、時代の変遷

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 開業の始まりは1953年、桜坂時代です。あれから65年が過ぎました。当山内科・外科医院は堅一、堅次、二人の仲良し兄弟で医療・医業が開始されております。兄は内科医で沖縄の結核撲滅に貢献しておりました。弟堅次は私の父です。軍医からの復員ですが開業当初、腹部外科を中心にやっております。終戦直後の外科開業です。医師一人では開腹手術もままならず産婦人科医の赤嶺先生とペアを組む事も度々であったようです。その後、次第に沖縄の医療も充実し、中部病院、琉大等々の公的病院、私立の総合施設も多数出来、開業外科の守備範囲は狭くなり、堅次の外科的素養は形成外科に向っております。即ち沖縄で第一番目の形成外科医です。形成外科医は傷をいかに綺麗にしていくのか?が基本ですが、私は桜坂時代から久茂地へ移転した後、父の跡継ぎ、東京で深く学んだ形成外科を沖縄に根付かせたという自負があります。今年6月で三代目にバトンタッチの65年目、時代の変遷に対応した長い年月でもあります。「三代続けば末代続く」正念場はこれからも続きそうです。

不安

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 「手術前にこれほど不安と不快に思った事は恐らく誰もいないだろう」これは手術を前にした患者さんの言葉ではありません。昔の有名な外科医の正直な手術前の感想なのです。彼の名前はウイリアム・チェズルデン云う膀胱結石摘出の名医です。麻酔法の不充分な時代、彼は心を鬼にして無麻酔で数分間のうちに身体の中の石を除去したと云う事ですから、想像するだけで私は身の毛のよだつ思いを持ちます。執刃する医師の方がこのような思いを持つくらいですから、患者さんの方はどのような思いだったのでしょうか?想像すら出来ません。やむを得なかったのでしょうが、大変な時代でもあった訳です。実は私も尿管結石の経験があります。夜半痛みに耐えられず大道で開業されている嶺井先生をお訪ねしました。数時間の点滴後、何事もなく軽快しました。前記した事実と比較して何と云う違いでしょうか?医療の進歩と共に治療して下さった先生には感謝するばかりです。日々にメスを握る私自身ですが、今の私は術前の不安は神に祈り術後の経過に心配する美容の外科医なのです。

美容注射の功罪

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 美容医療が日本でも広まるにつれ、種々な美容注射が出現しては消えていきます。過去にはオルガノーゲンやアクアミドが早々に消えました。新しいのはヒアルロン酸やレディエッセでしょうか?ボトックスや脂肪融解注射は一般の方でも一度は耳にした事がある注射名でしょう。注射ひとつで美しくなれるのであれば、誰しもが飛びつきやすくなりますが…。身体に直接注入するもの、それほど安易ではありません。きちんと製品テストがなされているか?どこの国で製造されているのか?クリニック側でも仕入れる前に充分下調べが必要です。安いものが良いとも云えませんが、高いものの中に暴利が含まれていないのか?医療ゆえお客様側はチェックが難しいのです。その為、私は使用された注射内容を母子手帳やお薬手帳のようにお客様にお渡ししたら如何か?と考えております。一方、安全なのは、自分の細胞を利用する自家組織注入や移植ですが臨床的には現在、オゾン療法、血小板血漿注射、真皮脂肪や脂肪注入など再生力を高める治療が出てきているのは嬉しい限りであります。

ピアスの意義

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 倉田 喜一郎先生は日本形成外科の黎明期にご活躍された方です。東京でご一緒に仕事した時の先輩、非常に緻密に物事を見つめていくタイプでした。若くして亡くなられたのは残念ですが、先生が残された植皮の歴史書は古今東西の形成外科が述べられ、物語り風なのが大変に面白く、読み応えのある形成外科の歴史になっています。例えば耳飾りのピアス装飾は人間の本能部分があり、地位を自覚したり、自分より秀でた方が存在する時、衝動的に高貴なものをつけねばならないと反応し、身を守る護符の役目をしていたと記載されております。又、古代エジプトのピアスは耳穴から入ってくる悪霊を防いでいる説や、日本の阿弥陀如様は修業中にはピアス?をつけるが、次第に怠りをえるとピアスを外していたなども面白い文章でした。一方、現代の若者装飾は移り変わりの早い流行が特徴ですが、私は職業柄、飾りの種類、理由よりピアスのトラブルに気をつかいます。果たして、護符のピアスをつけ、どれだけ最近の若者が怠りを得ているのか興味をもって…見守っているのです。

クレオパトラの美しさ

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 今や日本の美容医療は韓国を凌駕する勢いで、他国に比しても見劣りがしない。猫もしゃくしもとは云えないが、多くの女性が興味を持っていることだけは確かである。私自身、開業当初これほど美容外科が発展するとは思わなかったが…、このように女性が外科治療を受けて迄美しくなりたい望みが強いのなら、技術の発展よりリスクを少なくする努力も急務であろうとも思った。絶世の美女クレオパトラ、山羊ミルク風呂に入り美を極めたとされる。そして、彼女の眉の化粧法は今でも引き継がれ、日本の芸妓さんの眉化粧に似ていると云われ興味深い。然し、何事もやり過ぎは禁物である。美を求めるあまりトラブルに巻き込まれる例は他国の現状をみても分かるが如しである。前記したクレオパトラの色白もその原因は山羊ミルク風呂ではなく、甲状腺疾患の為ではないかと推測されるほどになっている。美と健康を並べてみる時、当然健康あっての美しさ、その為美容医療で大切なのは長期フォローの安全保障であり、一時的流行に惑わされぬ健康頭脳をもっての判断である。

電子カルテのパスワード

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 電子カルテを導入したのは15年以上前になる。新しもの好きが興じた訳ではなく、紙カルテより便利と思ったのが動機である、…が然し、最近三代目が着任して「古い電子カルテだ!」断言されたのには驚いた。もはや新しいものがどのように改良されているのか知る由もないが…。健康保険では3ヵ月に1回、電子カルテを使用する場合はパスワードを変更すべきだと指導された。ロッカーの暗証番号やカード番号さえ忘れがちなのに、3ヵ月毎だとパスワードを覚えた頃に変更せねばならない事となる。ふと、ある書物を紐解いた時、指紋でパスワードが出来ると記されていた。これだとタッチパネルの如く、指を触れるだけで良い訳で、個人識別は容易である。映画の世界ではすでに触れるだけで秘密の扉が開くようになっている。指紋は小さな隆線と溝の集まりで滑り止めの役目をする。即ち、物をつかむ際に重要な役割をなし人間とサルにしかないらしい。本日も多くのお客様を思い浮かべ叩くキーボード、私の指紋が沢山残っている、この指紋利用出来ると有り難い。

耳よりなお話し

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 沖縄の「ミミガー」料理、コリコリして美味しいですネ。豚の耳を利用するのですが、中国ではいのしし(猪耳)?らしいですネ。耳の軟骨、実は弾力性に富んでいるのですが、解剖学的には神経や血管がないのも特徴的です。その為、柔道やお相撲さんが格闘技でつぶれても痛くなく、云わゆるカリフラー様の耳になるのです。皮膚がこすれ出血しても軟骨自体痛みなく放置され、大きな変形が残るのです。若人の軟骨ピアスが化膿すると耳の軟骨全体に及びますが、全く痛みはありません。最終的には皮膚の痛みで気付くのですが、その点、軟骨ピアスの感染は早期発見が出来にくく、やっかいです。一方、耳の軟骨は美容外科で移植材料として割と頻回に使用されます。利用度の高いのが鼻の美容形成、鼻翼部の軟骨は耳と似た様な材質なので耳の軟骨を利用するのです。採取される側の耳も術後変形が生じない利点もあり、その利用は年々高まっておりますが…お正月のミミガー料理コリコリと美味しのですが、ふと食べる時、職業意識が出てしまうのが私の悪い癖かも知れませんネ。

赤と青

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 私が良く利用しているフェリーチェは床屋さんにある赤・青・白の3色、お馴染みの看板がない。理容店を併設しているからかも知れない。男性は馴染みの理髪店に行きたがる。近くが便利だが、フェリーチェが浦添に引っ越したので遠方ながら月1回通っている。理髪店特有のあの三色看板がなくても、あそこは俺の髪を切って下さる所だとの認識が詰め込まれているのである。三色は動脈・静脈、包帯を表していると聞いた事があるが、昔々は医者を兼ねていたからだと理髪屋の友人は私に教えてくれた。その時、白の包帯はなんとなく分かった。又、血液が赤なのは仕事柄から分かってはいたが…分からなかったのは赤と青どちらが静脈で動脈なのか?何故、赤と青なのだと云う点にあった。手術中に多いのは黒ずんだ赤なのであるが、大方ジワジワの出血が静脈血である。静脈の血液は酵素が少なく、皮膚を通してみると青くみえるのであろう。真っ赤な鮮血は酵素を含んだ動脈、このように赤・青の区別がつくと、血の気の引いた真っ青な顔は酵素が失せた色と分かるのである。

人体実験?

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 長男一家を含めて、にぎやかなある日の夕食時、話題はお酒の話しからピロリ菌の話へと移っていった。私が若い頃、お酒を飲んだ時、胃痛に悩まされていたが、その原因はピロリ菌であったのである。そのうち、カミさんや息子、娘迄ピロリ菌がいた過去が分かり、各自それぞれに治療していたのである。原因は子供の頃、母親が口移しで子供達に食べ物をあげていたからではないか?たわいもない結論でその場は終った。翌日、ふと不安を覚え、ピロリ菌の歴史をかじってみた。驚いた事に同菌の発見者マーシャルは、自分でピロリ菌を飲んで、この菌が胃潰瘍の源である事を証明したのである。胃潰瘍は別名「人間病」であり、人にしか発生しないらしい。その為、動物実験が出来ないので、自らが被験者になったのである。熱心な医者がいたものだと、ほとほとに感心するが…実は美容手術も動物実験は行えない。その為、当院の多くの女子職員は率先して新しい治療法に実践し挑んでいる。私だけは痛みに耐えられず、麻酔をどうするか思案中、情けない医者なのである。

人間の成熟度?

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 ピアスと云えど20歳以下の未成年者の治療は保護者の同意を必要とする。日本の裁判事例だとそのようになっている。一方、日本では今回、選挙権が18歳以下と引き下げられた。やっと国際的基準に成ったと国会議員さんは喜んだ、理由は多々あったのであろうが…このケースは有権者が勝ち取った過去の婦人参政権等々とはやや違う。つまり、世論の高まりでなったのではなく議員さん方が議論し、20歳を18歳に下げているのである。当然、巾広く政治、社会、経済を知ってもらう狙いもあるが、医療の立場から成熟した人間は何歳頃を指すのだろうか?ふと考えた。通常、動物個体の寿命は成熟後から5倍とされている。成人を20歳と仮定すると100歳以上と期待が出来、18歳を成熟個体と考えると、その5倍、90歳迄しか生きられない計算となる。沖縄県の長寿復活への願望はこれからの若い方がどの程度、健康で長生き出来るか?がポイントで大きな命題がある。その為、18、19歳の方々に与えられた選挙権の役目、若人に逆に重くのしかからないか心配ではある。

第3者判断

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 前東京都知事が身の潔白を「第3者判断にお任せする」と述べた。この第三者判断はすでに今年の流行語大賞にノミネートされそうな勢いである。「公正さ」を求め、物事の疑わしい行為を第3者に判断してもらう事は決して悪い事ではない。翻って医療の場合はどうであろうか?専門的特殊技法が多く、医療結果が患者さんには理解しがたい。結果に不信でも専門的知識が少なく判断に迷う。この様な時、世の賢者はセカンドオピニオンを患者さんにアドバイスする。然し、このセカンド医は第3者とは云えない。2番目の医者の言葉は時として予期せぬ方向へ向かう。従来から医療は「後医は前医より名医」と云われている。前医の治療後を結果論から述べやすいからである。又、治療前の詳細を知らない後医は同情的側面でアドバイスしがちになり、つい患者さんの持っている心の不満に対し火に油を注ぐ結末となる事がある。ここにセカンド医の立場の難しさが横たわり、結局、サードオピニオン、即ち第3者の判断が必要となるが、公正な第3の専門医を探すのが実際は難しいのである。

インドの医学

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 最古の医学、医療史はメソポタミアにつき当たるが…。形成外科に関係が深い医療はインドに行きつく感がある。当然、古代インドであるから紀元前まで遡らねばならないが、そこには元祖、形成外科医が存在したのである。スシュルタ(Sushruta)はインド式造鼻術を開発した医師であり、今で云う形成外科手術を紀元前に施行したと示されている。彼はスシュルタ・サンヒター大医典(日本語訳ススルタ大医典、昭和46年英語→和訳書)の著者である。本書には紀元前インドのヴェーダ時代に書いた人体解剖学と共に兎唇や造鼻術が記載されている。驚愕のもうひとつは、この書が長い年月埋もれていた事実であるが、かつ1900年初めに発見され、その後、原書から英訳に10年かかっている。とんでもない長い歴史にため息を伴うのである。21世紀の今日に於いても、外傷で鼻がなくなった方の再建術は難しい部類に入るのである。現代医療が本当に古代インド医療に追いついているのか鑑みる時、上には上がいるものだと思わずにはいられない。ため息が2乗する。

コクラン効果

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 最近の医療改革の注目が、コクラン共同計画であろう。病気の治療選択で一番良い方法は何か!患者さんが最も知りたい正確な情報を吟味し、世に示すプロジェクトである。誰からも、どのような組織からも干渉を受けず、臨床評価を示す専門職のボランティア作業、大変である。二重盲検法、プラセボ効果、無作為割付比較対照試験、一度はどこかで耳にした事のあるこの言葉はコクラン博士の疫学調査研究から出たと云われる。いわゆる科学的根拠に基づく医療(EBM)の源である。我々が専門とする形成外科雑誌PRSの発表論文も治療効果レベル、リスク発生程度など発表論文評価が数字で示され分かりやすい。つまり、治療効果とリスクのバランス評価を数字で表そうとする努力がみられ嬉しい所である。振り返ってみるまでもないが、今一番必要なのは私が従事している美容医療そのものではないかと考えている。効果のみ高々と述べ、同じ位発生するかもしれない医療リスクを発表しない広告など、プラセボ(偽薬、偽治療)に類するものかもしれないと思ったりしたのである。

3代目の形成外科医

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 父も私も…そして我が息子も外科医である。正確には形成外科である。米国では形成外科医=美容外科医であり、日本のように形成外科と美容外科を分ける事はない。これ等は歴史的流れから来ていると云っても過言ではない。父は元々が腹部外科医であるが、私の手首の腫瘤、ガングリオンを摘出してもらった事がある。私は学位を得た火傷の治療から形成や美容外科の変遷をたどったが、日本の形成や美容外科の夜明けに父子共に学んできた実績である。息子は私が学んだ頃の形成外科を基盤とし、その頃よりはるかに進歩してきている美容外科を学んでいるはずである。息子が医師になりたての頃、私は迷う事もなく、若い時、一緒に学び今や世界のリーダーになった友人にその身を預けてみた。3代続く形成外科医は世界的にも珍しいが、我が息子が私のライバルとなり得る技術を超えているのかを知るのはこれからである。ちなみに私は医療の進歩のおかげで父の技術は超えたかも知れないが、人間性においては遥かに及ばなかった。それぞれに生きる時代背景が違うからである。

沖縄県医学会

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 専門医に日頃の診療時、気付いた事をまとめ発表する、このような沖縄県の医学会が年2回開催され、6月にある。古い話しになるが…19世紀迄は戦の死者より、手術台で亡くなる患者さんが遥かに多かった。原因は感染であるが、なぜ起るのかさえ分からなかったのである。その後、伝染病で有名なパストゥールがレンサ球菌等をつきとめ発表し、この業績を聞き、手術場での消毒法を確立したのがイギリスのリスターである。今でもそのような傾向があるが、国内で評価されずとも詳細な研究論文は世界の誰かの目にとまり、より完成された治療法として役立つ時期が訪れる。小さな沖縄でも内容のしっかりした論文は、後世の誰か?他国の興味ある科学者の目に留まり、ひとつの物語りが始まり、完成していくのである。医者は患者から日頃何気なく学ばせていただいているが、この物事を発表する習慣が必要である。前記した県医学会は開業医が戦後、自ら創設し育てあげた他県にないユニークな研究発表会である。沖縄から第2のパストゥールやリスターが出ないとも限らない。

小さな日々の変化

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 日常、外来でも目にすることが出来る外科用の小さな用具も時代によって微妙に変化・進歩しています。ある日、怪我をした患者さんが「溶ける糸で縫合して下さい。」ご注文がありました。然し、溶ける糸は溶ける時期が一定しないのです。この吸収糸の創始者はジョゼフ・リスタと云う方ですが、消毒法を開発した彼は牛の腸線をクロム酸消毒によって作り出したのです。当初の溶ける糸、即ちクロミックカットグットは後に狂牛病の出現で消滅し、代って出てきたのが人工素材による吸収糸です。但し、糸の溶ける時期があやふやなのは困り、結局、吸収糸も原則、抜糸を前提とした方が良いのです。一方美容外科では、長期に溶けにくい吸収糸を皮下に埋没し、小皺取りをする技術が出現し、最近、種々な応用がなされているのです。前記したリスターがワインからヒントを得て作り出した消毒法はクリニック特有の臭いで有名でしたが、現在の消毒薬は部位によって使い分け、病院独特の臭いがなくなって久しくなりました。このように外科用器具も時代で変化し分化しているのです。

医学と哲学

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 医聖と云われ紀元前に生まれたヒポクラテスを時々に本欄で記している。然し、彼の全集を読んでみた訳ではないし、読んでみても洞察力も乏しい私自身である。その為、伝えられるヒポクラテスのすごさは、後に記されている書物の断片から拾い読みしているだけの種である。医聖にして哲学者、昔々の偉大な医者であるが85才以上は長生きしているはずだ…とも記されている書物の一部をみるだけで圧倒される。私は医者になって悩み苦しんだ時、父が私に伝えた事を覚えている。「苦しい時、医学書を読むのではない。哲学書を読んでみろ。」必死で紐解いた膨大な医学書には正解がなくても哲学を学べば、少しは心が落ち着く…ことなのだろうとその時、理解した。紀元前に生まれ、今で云う在宅医療を心掛け、医学の学術的基礎を築いたヒポクラテスはその頃から医学と哲学の結び付けが重要なのだと推測していたのであろうか?興味深い所であるが、私は未だ医学書を読むだけで手一杯であり、亡き父の云い伝えた哲学書を紐解く余裕のない未熟な医者なのである。

電気バリカンの応用

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 皮膚移植は形成外科の専門、各種の術式があり、身体の欠損に対し修復方法は欠かせない技術である。この皮膚移植、過去には他人からの移植術(同種移植)も考えられたが、拒絶反応が壁になって実現してはいない。他の臓器では解決されつつある同種移植であるが、皮膚移植だけは今もって臨床応用にはほど遠いのである。然し、自己移植、即ち自分の身体から持ってくる方法に関しては格段の進歩があり、その源であるドラム型ダーマトームの皮膚採取器を日本に紹介したのは我が師の大森清一である。大森は沖縄でも数多くの患者さんを本法で治療している。一方、近年は各種の電動式が出廻っている。この電動式(皮膚採取器)を考案したアメリカのブラウンは髪を切る電気バリカンの応用から、第1号試作器を1947年に完成している。然し、彼は自分が作った製品の世界的広がりをみる事なく、残念なことに自動車事故により27才の若さでこの世を去っている。彼の無念さを考えながら、私は時々に通いなれた理髪屋さんで電気バリカンを使用し髪を切っているのである。

ピコ秒のレーザー

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 1兆分の1秒、これをピコ秒(Ps)と称するようです。こんな細かい時間単位迄、我々の日常生活の中で必要なのでしょうか?然し、考えさせられる事例が出たのです。1ピコ秒は0.000,000,000,001秒なのですからネ!この単位が実は医療の中で重要になりつつあるのです。応用は刺青除去の治療レーザーです。名前をピコレーザーと云いますが、今の所、値段が高く日本円に換算して3千万円余の機械です。でも、アメリカでは大人気だそうです。米国でもいかに刺青を入れ後悔している若者が多いのか分かる気がします。沖縄の針刺は別の論がありますが、日本での風習は刑罰の一種として窃盗犯に「耳そぎ」「鼻そぎ」に変え、徳川吉宗将軍の時取り入れられています。その頃から入れ墨は消す事の出来ないものとして顔や首に入れられ、罪人は非常に恐怖をもっていたと伝えられています。今頃になって若い方々が恐怖ならぬ後悔をもったとしたら、なんとかしてあげたい…この気持ちが1兆分の1秒と云うレーザー機械を生み出したとも云えそうですネ。

ボトックスとは?

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 ボトックスとはボツリヌスA型毒素を利用した注射薬…実はこの名前、某社の商品名です。その為、同じ注射薬でもメーカーや製造国が違うと、別の名前になります。然し、ボトックス名があまりにも有名になり、他社のユーザーでもつい「ボトックス打って下さい」と云う現象を起しています。これほどになると、この某メーカーも売り上げを増しますが、米国の過当競争の激しさ、最近は高額で企業買収され、吸収合併されてしまいました。ボツリヌス毒素はベルギーの細菌学者がソーセージや豚ハムで起った食中毒から、嫌気性桿菌を発見したのです。その時、ソーセージのラテン語名がボツリヌスなので、ボツリヌス菌と命名されております。その後、ボツリヌス毒素が運動神経麻痺に効果的と分かり、眼瞼痙攣など積極的に利用されている今日があり、医療的貢献になっているのは喜ばしい事です。そして、その延長線上が女性のカラスの足跡、小皺を消す療法と広く知られるようになったボトックスなのです。

ヘベレケレン

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 医学生の頃、新宿の歌舞伎街を通り抜け帰らねばならず、寄り道が多く…お酒のお付き合い。結局ヘベレケの寝床入りがあった。良くぞ大学を卒業、国家試験が受かったものだと今頃、冷や汗をかいている。然し、今でも時に深酒をする。よほど肝臓が強いのだろうと思い調べてもらうと、肝臓の強さと酒の強さは違うらしく、検査成績は要注意と出た。日々、お酒でヘベレケなので肝臓が悪いのは当たり前だと主治医の伊集先生が指摘した。又、酒飲みで注意しなければならないのはアルコール感受性の低下である。これは自分自身で酔いが冷めたと勘違いする現象である。頭ではアルコールがないと認識しても、現実の血中濃度は以前としてアルコールが残っているのである。酒のみはこれを忘れ運転するから事故を起す。付け加えておくと、ヘーベと云うギリシャ神話の青春の女神がつぐお酒、これをヘーベーのお酌(エーカ)と云う。つまりヘベレケの語源らしい。私は手酌で飲んで、ひとりでヘベレケレンである。学生時代と変わらずであるが、誠に酒が強いと云えるのかは疑わしい。

お肌の再生

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 お肌の改善で新しい化粧品や美容液が宣伝されています。その中で近年の特筆はなんと云っても成長因子の関わりでしょう。特に蛋白質に含まれる上皮成長因子(EGF)を発見したスタンリー・コーエル博士はノーベル賞を受賞したほどです。日本の厚労省も一部化粧品への配合を認可し、需要の加速が促されています。美容医療領域でもコラーゲン、ヒアルロン酸注入同様、色々な成長因子の研究がなされ、毛生え薬への応用もあるほどです。一方、怪我における傷の修復作用でも、成長因子は有効な役割をなすものがあり、外傷時の体外露出液は粗末に扱ってはいけないとされています。怪我で皮膚が損傷された時、EGFを含んだ体液の保存で生まれ出てきたのが云わゆる「湿潤療法」の概念です。成長因子は細胞増殖因子とも云われ、ホルモンに似た役割を果たすものなど、現在、十数種類が発見されています。未だ、生理的役割が定かではないものもありますが、実は山中先生のIPS細胞に先駆け、こちらはすでに前記した如く臨床的に応用されつつあるものも多いのです。

医療・看護・介助の女性達

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 超高齢化社会、日本も介護制度が出来、看取りの終末、威厳ある死、我々にとって避けて通れない時代背景を背に、現実は続いています。痛みなく最後を生きる、この概念を確立したのは緩和ケアーの母、イギリスのシシリー・ソンダースさんです。彼女は恋人の死に直面し、終末期の疼痛緩和に取り組んでいましたが、女性としての特性がこの道を選んだのでしょう。病める人に寄り添う医療・看護は正に優しさに富む女性に合った職業かと思うのです。フランスで初めての女性医師ジャクリーンさんは男性医師が治せなかった病人を治しましたが、公式には医師免許を与えられなかったとされています。又、19世紀に入ってようやく、女性にも医師免許が与えられたのは日本も米国も同じ頃ですが、今や医学生の半分は女性にとってかわろうとする医療界です。女性の感性を源にした知恵は、優れた治療、介護ケアーを生み出す可能性が期待出来るからです。男性医師も負けていられません。さて!我々男医はどうするか?柔らかい柳腰の彼女達に力より徳をもって接する事になりそうです。

豊胸術(乳房増大術)のガイドライン

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 乳房発育不全に近い方々はコンプレックスが長く残っています。美容外科ではこのような女性に体型補完のひとつとしてシリコンバックの豊胸術は良く行われている施術のひとつです。一方、形成外科でも再建外科の一分野として乳癌等の術後再建にシリコンバックが使用されてきた事実があります。この長い歴史でシリコンバックは素材面から山あり谷ありの経緯をたどって今日に至っております。その間、米国の医療訴訟があり、世界的有名メーカーが消え去った事実もあります。昨今はシリコンから脂肪注入への流れが多少みられますが、やはりバックの良さや大きさの魅力には勝てません。そこで今年に入り、厚労省指導のもとで日本形成外科学会は豊胸術をする医師への指導ガイドライン、使用するバック選定、術後10年と云う長期フォローアップの義務付けをしております。お悩みの深い女性へのバックアップ体制がやっと公的に出来た事になりますが…。この方針は長年、豊胸術をする我々医師の悩みをも紐解いてくれた決定であり、ひとつの安堵を得ている所です。

臭いか?匂いか?

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 臭いの計測値が今もって客観的になく私個人は困っています。「貴方には加齢臭がある」古女房に云われてもどの程度の臭いなのか?自分では分かりません。男っぽい臭いではと主張しても、嗅覚のするどい女房殿には云い訳が出来ず、反論の余地がないのです。「匂い」と書くと良い匂いのようにも思われるのですが、「臭い」となると何故か悪臭を連想してしまい、それこそ始末に負えない事になります。又、臭いの尺度がはっきりしないので困るのが実は「わきが」の手術です。若い女性が細やかにわきの臭いを訴えても私の嗅覚神経は香しい匂いと捉えてしまいがちになるからです。嗅ぐ感覚の鋭い持主が我が女房である事は確かですが、わきがの手術をしてもまだ臭うと訴える若い女性の臭い感覚の計測値?どの程度に客観性があるのか判断に迷うのです。犬の鼻は臭いに敏感であると云われる所以は何となく理解出来ます…が然し、「嗅」と云う字が鼻と犬の合いの子になっているのは何故なのか?解しにくい美容外科医、嗅覚が鈍ってしまったのではと気になりました。

医学史

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 森 鴎外と北里 柴三郎の脚気論争は医学史に残るやりとりで、東大系と慶応との医学的いがみ合いになった事は有名です。結局、ビタミンB欠乏症が原因と分かる迄、数十年の争いが続いている。最終的には北里 柴三郎の論が正しく、森 鴎外はその後、文豪として名を成している。この論争は、文部省と内務省にも及び伝染病研究所の主導権争いをしていたので、当時の権力者達の暗躍も伺い知る事が出来る。要するに組織も人であり、人が集まっての組織ゆえ、感情が熱く入ってくるのであろう。その時、福沢 諭吉は「政府を信じるな、然し、いざと云う時の資金は貯めておけ」北里 柴三郎に伝げている。歴史は過ぎ!慶応大学に医学部、さらには北里大学医学部へ柴三郎の精神は引き継がれていく事になるが…彼がノーベル賞を取れなかったのは、単純に日本人だったからなのであろうか?興味もある。昨今の伝染病の広がり、国家間のプライド、地方と政府との葛藤、人と人との繫がりに重さを感じ、一介の開業医が暇々に医学史を紐解くと人生模様が読み取れる。

医療行為の前後

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 医療行為とは人様の身体に何等の影響を必ず及ぼす行いである。医師は患者さんの病気の原因を見つけ、その原因を退治し、健康の回復を計る。その為に薬を投与したり、外科手術を施したり、場合によっては放射線療法やリハビリ等もする。この治療行為は主作用、つまり好結果を生みだすだろうとする理論、理屈、経験的データをもとに施行される。然し、医療行為は時に副作用を生み出す事もしばしばである。副作用は良い点、悪い結果も呼び起す、その為、副作用と云わず副反応と云われてもいる。医師の治療前の説明には主作用と共に副反応を詳しく述べる必要があるとされているゆえんで、これがインフォームドコンセントの一部である。一方、治療後に不安を持つのも患者さんの特徴である。正しい治療がなされているのか?副反応は表れているのか?自分の身体に施されている行為なので最大限の心配が心によぎる。治療前の相談、治療後のケアは治療そのものと同様に重要な意味合いをもつものなのであるが、この前後の行為を含めてのすべてが医療行為なのである。

おできとの戦い

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 当クリニック、美容医療が専門であるが…ホクロや疣とりを希望される方も多い。小さなできものやおできの方も来られる。化膿して痛みを生じ、やむなく来られるが…切開し膿を出す。おできは前述した痛みを伴い、処置時の激痛はかわいそうになる。触られるだけで痛むので、麻酔時も痛いのである。化膿菌が出てしまえば大方は回復に向う。うみは膿(のう)と書き、ドイツ語で「アイテル」英語で「パス」と云う。古い医者はアイテルで理解し、若い医師はパスの方が通りが良い。白血球の死骸が膿であるが、激しくバイ菌と戦った末の戦死物である。濃いものから薄い排出物迄あるが、出来れば切開創を広く広げて膿を排出しやすくする。深い化膿巣は切開しても治療途中で表側が閉じやすくなるので、出来るだけ底辺部から治癒過程を促していく事は大切である。沖縄県は粉瘤と云われる表皮腫瘤も多いが、化膿してからの来院は医者嫌いな県民性もあるのかと思う。先ずは嫌われない医者を目指しているが、痛みに耐えている患者さんをみると、私自身心が痛むのである。

レジスタンスと耐性

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 日本の歴史、悪徳非業の代官に農民一揆の抵抗運動はやむを得ないものがあったのであろう。ネオナチに対するフランス市民のレジスタンスは有名なお話しであるが、医療行為で有名なレジスタンス運動は耐性菌の出現である。むやみに抗生物質を飲むと常在菌のレジスタンス、云わゆる耐性菌が生じてしまうお話しである。その為、ピアス如きに化膿止めを飲むのはやめよう!予防効果もないよ…主張するお医者さんは多い。その通りであるが、実はこの耐性菌、実際には正常細菌の中で生活環境も異なり、生き残りに必死なのである。どこの世界でも少数族は堅苦しく生きているのが常なのである。一方、飲めないお酒を飲み続けると飲めるようになるのをレジスタンス現象と云う。人間の身体はある程度、生活環境に馴染む能力がある、摩訶不思議な生き物でもある。私自身は結婚生活40年、新婚当初は抵抗感があった不慣れな生活環境も、カミさんに抵抗する元気なく耐性が出来上ってしまった現象がある。

ピアスのトラブル

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 最近では若い女性のほとんどが耳たぶにピアスをしている。おしゃれの一種であることは間違いない。ピアスは世界最古の装飾品ともされ、紀元前の壁画に描かれている。当時は装飾と共に悪霊から身を守る呪術的意味もあったようだ。特に小児の耳たぶに穴をあける習慣は福音の祈祷が述べられ、古代エジプトでは穴をあける外科医に対して無知によるピアス後のトラブル発生を戒めている。それほど昔から合併症も多かったのであろう。日本の歴史上でも観音菩薩像には耳飾りがみられる説がある。然し、修業中の菩薩にはない。悟りをひらくにのに装飾品は不用とされたのであろう。現代はどうであろうか?医療機関であける方は少ないが、医療機関であけたにしてもケロイドや感染等ピアスのトラブルは年毎に増えている。外科医の無知も責められる所であるが、放置し悪化してから来院されるのもやっかいだ。ましてや子供にピアスと懇願する母親の気持も又、分かり難い。厄病から子供を守るのにはピアスに頼るのではなく、日頃の注意が親の役目ではないかと思うからである。

見栄えと機能

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 美容外科は加齢を防ぎ、美しさをみせるよう手術していく…。と思われがちです。間違いではないが、その上に機能の温存・改善を伴って始めて完成するのです。つまり、医療の進歩のみせ所なのです。端的なのが眼瞼下垂です。云わゆる瞼が挙がりにくくなって視野狭窄を生じ、かつ外見的におかしくみえる疾患ですが、外国では眼科の先生方が手をつけます。勿論、日本でも 眼科の先生方がやられている場合はありますが…。然し、圧倒的に美をも重んじ、美容形成で施行されているのです。最近、特に多いのは加齢に伴う筋肉の衰えによる老人性下垂と長期コンタクト着用によって生じたコンタクト下垂によるものです。これ等の疾患は弱った筋力を強化しますが、同時に見栄えもきれいにしてあげねば目的を達成出来ず、そこが美容外科医技術の心髄になっています。瞼を挙げ機能改善を計り、きれいな二重に仕上げる訳ですが、動きと外見、二兎を追うようになるこの手術、正に芸術的で繊細な技を必要とし奥が深く、美容外科技術評価の第一番目に推薦されるテクニックです。

エボラ熱に思う

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 「国民的英雄」シエラレオネの保健省から、そのように称えられていたウマールカーン先生が昨年夏に亡くなった。39才の若さである。エボラウィルス対策で陣頭指揮をとっておられた医師である。謹んで哀悼の意を表させていただくが、感染経路が分からず後に続く医療団にはとまどいが多い。あまつさえ献身的治療後、帰国した米国の看護師さんが2ヵ所の州で隔離に合い、裁判所命令でやっと解放されたと聞くとエボラ出血熱で先頭に立ち治療をする医療団の意欲が失わされる結果を生む。記憶に新しいデング熱は蚊が媒介し特定公園での処置を施したが、エボラもハマダラカが媒介する学説もある。いずれにしろ県内にもインフルエンザが流行する季節となった。初期症状が似ている事もあり、今冬は風邪等に充分注意しておく事が必須の条件となりそうである。私自身もインフルエンザの予防注射は苦手なタイプだが…今回だけは注射を受ける事にした。それにしても次から次へと発生する新型の病、心許しておけない部分が多く医療人の奮起のみで事がおさまりそうもない。

厚労省認可の薬剤

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 ヒアルロン酸で容易に若返りが可能な時代になってきた。これ迄と違い、量を多く、深層に注入していくのである。加齢が進んだ顔は皮下脂肪の萎縮がたるみを生じ、若々しさの象徴であるお肌のプリン、プリンしたボリュームが減少する。改善のひとつが顔面に対する脂肪注入であり、これ迄脂肪注入とフェイスリフトが主体であったが、術後に腫れが生じ、云わゆる外出期間が制限されるダウンタイムが起る。この欠点をカバーする技術がヒアルロン酸による顔のボリュームアップ(リフト)である。先の尖っていない鈍針を使用するのも特徴で、内出血少なく、痛みの軽減策もとるので、これ迄の治療法と違って外来治療で手軽に出来、翌日から外出も可能である。気に入らねば溶かしてしまう事も出来、施術者やお客様にも安心感がある。ただひとつ困るのは、注入物認可に日本の厚労省では5年以上かかるのである。許可がおりる迄の長期期間の間に、外国ではすでに新しくすぐれたヒアルロン酸製剤が出廻ってる…薬剤行政の遅れは世界と勝負する時、大きな壁となって悩ましい。

手のふるえ

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 私は過去に尿管結石で嶺井先生にお世話になり、点滴ひとつで治ったのに感謝の意を強くもった。手術でもと内心思っていたからである。18世紀イギリスの外科医チェズルデンは膀胱結石で名声を得たが、切石術50で死亡3、その後は63例で6例の死亡と正直に報告している。それから比較してみると医学の進歩に驚かされるが…チェズルデンの手術が年を重ねるに従い死亡率が高くなっているのが気になった。詳細にみると、最初は軽症例に取り組んでいたが、評判が上がり重症例にも手をつけた結果、数を増し痛ましい事例が出ていたのが分かる。つまり名声は得ても外科医の心の代償が大きくのしかかっていたのかが思い知れた。 彼は術前の不安で吐気をもよおすほどと述べ、緊張・不安は手術を進める事によって治まったと伝えている。手術の成功は知識の多さではなく、慌てず騒がず、手が震えなかった事が秘訣であるとも伝わった。確かに私の点滴注射時、嶺井先生に手の震えはなかったようで、その後、私も元気に手術場で腕を振るえている道理でもある。

医学論文の出来上がり

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 医学の歴史書を読むと実に興味深く時代背景が読み取れる。医療人が病に挑戦する物語になるが、競争心や名誉欲も絡み、誰が一番最初に成し遂げた業績か色とりどりが読み取れる。結果的にみると多くの人が関わり、決して一人の人間の業績ではない事も分かる。無我夢中で研究に没頭した中心的人物の他に、昼夜に渡ってサポートした方々、実験的治療法に自ら志願し協力した方々もいるのである。それ故に医学論文は主語が私ではなく、「我々」の成し得た結果と書き残す。写真のない時代の古い外科論文には絵が載っているが、近年は写真が主体となる。文章のみでは分かり難い部分も実際の写真を見るとイメージが湧き、追試が出来易い。形成外科などたくさんの実写が保管され、患者さん記録の価値としても高いものがある。然し、その写真も現在の技術では修正が容易なので、動画の価値へと変化している。今回のスタッフ論文、後世の科学者がどう読み取るか?共同研究者の「我々」の反省は?ネイチャー編集部の査読チェックはどうだったのか?興味は尽きない所がある。

想い出の写真

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 他人からの臓器移植は条件が整えば可能な時代です…が然し、皮膚移植だけはまだ不可能な段階です。免疫反応の問題ではなく、同種移植をしなくても自身の一部からでこと足りる場合が多いからでもあります。但し、自家皮膚移植も歴史を振り返ってみると多難な労苦のもとに本日に至っています。特に皮膚に脂肪をつけ、厚さのある遊離植皮が成功したのはほんの数十年前の事です。顕微鏡下で血管を再縫合すれば遠隔部位からも、ぶ厚い皮膚移植が出来るとしたのは私の友人でした。彼は動物実験から臨床例へと成功を導き世界を驚かせました。世界の興奮はすぐに私共のもとへも届きました。顕微鏡下に於ける皮膚移植は今や当り前の時代ですが、その成功を身近にみてきた私には当時、驚愕そのものがありました。過日のある学会、過去を振り返り当時を想い発表させていただき、古き写真や書類を懐かしみました。彼の名前は波利井清紀氏、時々に沖縄でゴルフをした仲で、ゴルフは勝てても彼の足跡にはるかに及ばない現実の自分がいて、恥ずかしさに悩む過去の写真でした。

プラスチック紙幣

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シンガポール紙幣はポリマー紙幣、云わゆるプラスチックで出来ている。破れにくく、汚れにくく、その上偽造も難しいらしい。イギリスも2年後には紙からプラスチックにお札が変更になると云う。理由は前記した如くの利点があり、お札の耐用年数が現在の紙で出来ているものより長持ちする事にある。その結果、製造コストの節減につながる訳になる。世界各国のお札をみると、プラスチック紙幣使用国は25ヵ国以上、となると日本も早晩そうなるであろう。バブルの一時期、10万円札の発刊も考えられていたが、経済が安定してくるとプラスチックの方が良いのかも知れない。何故?外国ニュースでプラスチックお札に興味をもったのか…である。実は私の職業がプラスチックサージャン、つまり形成外科医であるからである。プラスチックが形成外科と何故訳されたのか?日本語の命名の仕方に問題があったにすぎないが、形を整えると云う所から来ており、汚れやすい、破れにくい訳ではない。私自身の耐用年数も長くなり、プラスチック外科医となって40年目が過ぎた。

夢にむかって

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 最近、不思議に思う事のひとつに米国大統領を退いた方々の支援率が上がっている事実である。クリントン元大統領は「クリントン財団」を設立し、飢餓の撲滅やHIV治療に熱心に活動している。ブッシュ前大統領もザンビアでピンク・レッドリボン活動を起し、アフリカの生活環境改善に積極的に取り組んでいるとお聞きしている。彼等の知名度と共に世界のトップとして君臨してきた実績と経験が生かされ、社会的に意義ある作業を見つけ、尚且つ邁進している姿がそこにはある。日本ではどうだろうか?数多くの首相が選ばれてきたここ十数年間の政治的リーダー、現首相は返り咲き、小泉さんは反原発で頑張っている。現役を退いてからの生き様が問われる時代であるが、要職を引退しても夢を持って生きているからこそそれぞれに良い仕事が出来る。その点、医者に定年はなく、自分で決めていく。私の夢は今の仕事をより良く完成させる事、即ち沖縄女性を全員美しくしてみせたい夢がある。叶わぬ夢ではないはずであるが、夢の現実が何時になるのかは定かではない。

審査

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 さすがに年を取ると血圧が高くなる。内科の友人M君に高血圧の薬を頂くが、最近、彼の処方が変わってきた。種類が増えたのは、尿酸値が高いので薬の数も加わっているのであろう。然し「ディオバン」が変更になったのはやはりあの事件がきっかけであろう事は容易に想像がついた。昨年、マスコミで話題になった某大学が故意にデータ操作をしたあの高血圧剤である。効果ある薬と思われる部分はあるが、薬剤テストの数字を意図的に書き換えるのは道義的に許されるものではない。実はこの事件が影響してか?最近は学会時に発表者は必ず製薬メーカー等々から金品の是非を宣誓させられる。やっと日本もここまで来たのかの感も持つ。米国ではビデオ発表もプログラム委員が内容のすべてを前もってチェックする。又、発表中、特定メーカー名を繰り返す時も座長権限で発言をストップさせる。審査の厳しさが増すほど真の努力による価値が生まれ、名誉になる。美容外科の場合はどうだろうか?学会発表さえもなく、企業秘密的手技が多すぎる…と思うのは私だけではない。

消費税アップ

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消費税が8%にあがった。大方の業種で価格呈示に工夫していた、価格改定でややこしいのは美容外科も同じである。価格表の変更は院内表示、ホームページ、パンフレットに及ぶから大変であるが、手術や治療費のすべてに手を加えねばならないのは美容外科が自由診療だからでもある。8%から数年後さらに10%に変更になるらしい。当院の事務方でも思案投げ首の結局、外税にして呈示価格は消費税抜きとなっている。然し、お客様への支払い説明はきちんとしなければ誤解を招くので不安は募る。他の業種と同様、高額商品になれば当然の如く消費税分は高くなる。昨今はカード払いが多くなっている現況は後日のカード会社支払い明細をみてビックリされるのかも心配した。又、美容外科は自由診療であるが、健康保険は公定価格である。その為、病気の場合は「健康保険点数内にすでに消費税分は含まれ計算されている」となっている。この数字が正しいか分からないが、社会保障に廻すと云う大義の消費税、少なく共、私自身に実感は少なく、大義の前に疲労感のみ残る。

消毒法

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 サムライが刀で切り合う時、映画では切られた相手が即座に倒れ死んでいくが、実際にはそうでない場合が多い。中岡慎太郎は暴漢に切られたが、亡くなったのは数日後である。恐らく刀傷から感染を起したのではないかとも推測される。今でも外科医にとって感染対策は大切な行為のひとつであるが、外科発達の分水嶺として消毒法が確立され始めて手術領域は新しい夜明けを見せている。イギリスのリスター男爵がその夜明けを作ったひとりである事は間違いない。彼が生存した19世紀、骨折した四肢は切断と云う荒々しい仕事が外科医唯一のなせる業でもあった。リスターはこの状態の改善に石炭酸が感染を防ぐと推奨し、消毒法を完成しどのような複雑骨折をも感染を起さず治癒させている。沖縄に多くみられるトーフのカシーと云われる粉瘤は皮脂腺から発生する腫瘍であるが、なんと多くの方々が感染してから当院を訪れる。嘆かわしいとは云わないが、消毒法や抗生物質のなかった時代を振り返る時、進歩した医療技術の中にいる幸せをよくよく噛みしめてみるのも良い事だ。

性同一性障害

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 2020年東京でのオリンピック開催が決定されたが…目の前に迫っているのはロシアのソチオリンピックである。スポーツの祭典ではあるが、ロシアでは同性愛が禁じられているのも知られており、スポーツ選手の中で隠れた議論となっている。一方、米国では昨年6月、米連邦最高裁で「結婚防衛法」が違憲とされた。即ち、同性婚者も異性婚者と平等に扱うべきだと判断を下したのである。私共では6年前、琉球新報社と協力して沖縄の同性婚、或いは性同一性障害(GID)の方々のお声をいただく講演会を開催させていただいた。その理由は精神科の山本先生が沖縄にはGIDの方が100人余おられ、外国で手術をお受けになっている事があったからである。外国での手術は術後のケアーに大変気を使い、患者さんに不安が生じた時、手術内容が分からずアドバイスが出来にくい事情もある。今回はからずも、この様な手術を地元の形成外科・精神科医が率先し、沖縄でも出来る気運が出て来た事は大変嬉しく、実現への協力、これからの推移に強い関心を抱いている所である。

ウーマノミクス

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 安倍政権発足以来、3本の矢で知られるアベノミクスは良く知られるようになってきた。経済戦略として、多くの国民から支持され、期待される源となっている。次に実施し、医療人から期待が大きいのがウーマノミクスである。日本、特に沖縄県に於ける男女格差の是正を目指すキャッチフレーズにもなるが、ジェンダーギャップが極端に悪い国内の脱皮を目標にしている。取り分け県内では会社の地位は高いが働かない男性が多い(?)悪評に反し、ウーマンパワー指数は高い、云いかえれば働く意欲指数は数段女性が上であるとされながら、社会的ギャップで埋もれている女性が多すぎると云う事になる。少子高齢化社会からの脱皮はひとえに男性の意識改革と待機児童の解消、職場復帰、再就職支援等々、労働環境整備が急がれる。子沢山の家族や高齢者を支えている家庭の主婦、教育貧困、沖縄県が抱えている問題のポイント解決こそがウーマノミクスにある。私が美容外科医として存在出来るのも共に働く女性達のお陰であるが、日々、支えてくれる彼女等に感謝を表しつつ…。

ゲノム情報

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米国有名女優さんの影響もあるのであろうが…昨今、遺伝子情報の事が話題にあがる事が多い。実は最近、英国で注目されているのが赤毛の遺伝子である。日本の女の子は(時に男の子も)赤毛や金髪毛に憧れる。然し、赤毛が多いとされる英国やアイルランドでは赤毛は気性が荒く、虚弱体質と云われ気にしている方は多い…とCNNは伝えていた。有名な児童文学の「赤毛のアン」も髪の色で悩み、黒く染めたりし失敗ばかりしていたが…然し、英国では3人に1人は赤毛遺伝子を持つとされ、この遺伝子の変化自体は紫外線吸収による進化の過程で生じているともされている。つまり、前述した偏見には何の根拠もないと遺伝子研究は伝えている。赤毛のアンが髪の毛で悩んでいたのは遠い昔のお話、今や英国ウィリアム王子とキャサリン妃の赤ちゃんもひょっとすると赤毛と?話題になった世の中である。ないものねだりが人の性であるが、遺伝子だけはご先祖様から受け継いだ遺産のひとつ、髪の色を変えるのもおしゃれを楽しむ程度でほどほどに…かなと思っている。

黒砂糖の効用

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 「砂糖」の「糖」は米から作られる意味もあり、その語源は種々であるが、黒砂糖はサトウキビが原料となっている…のは良く知られており、沖縄の誇りでもある。昔は医療で手の施しようがなくなった状態を称し、砂糖をきらした薬屋さんみたいなもの…と表現した如く、砂糖は薬としても重宝がられ食する事で飢餓感がなくなる事でも知られている。その為、断食日でも砂糖の使用だけは許されているのも薬だからであろうと風声するが、沖縄の黒砂糖も重宝され、県内外で愛されやまない。黒砂糖の1g中3.25のカロリー量は他の砂糖よりやや落ちるが、甘味は逆に大きく、ミネラルなどを多く含んでいる。沖縄のゴルフ場ではキャディーさんが必ずゴワゴワ硬い黒砂糖持参であるのも独特の事で一種の観光・風物詩ともなっている。砂糖は人工的に作り出しにくいもののひとつである事もゴルフをしながら覚えた知識であるが…薬の一種となると、口に頬張り水を沢山飲み、今年の夏も日射病に気を付け、大空めがけボールを飛ばし、自然を満喫していきたいものと思っている。

脈を診る

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 外科医になって、脈の触知で血圧の上がり下がりが分かるようになった。当り前の事でショック時など瞬時の判断に役立つが、自慢出来るほどのものではない。内科医の如く高血圧症を長期に診て、日頃の健康状態を月日で調べているのとは違い、緊急に立ち合った医師なら経験で脈圧の変化は分かるようになるからでもある。スイカを叩いて中味の成熟度が分かる様に、昔は胸の叩診音で肺結核を見分けたし、糸電話の応用で聴診器が発達してきた事も原理を考えていくと、なるほどとうなずける面が多い。然し、今やCTやMRIなどのコンピューター時代、あらゆる所の身体の診断が出来るようになり、撮影され写し出される画像もコンピューター画像となっている。その為、レントゲンを写す蛍光灯利用のシャカステンも不要となってしまった。将棋のプロが機械に負けるのもうなずける面があるが、でも、機械に脈を診られるより、可愛い看護師さんに血圧を計ってもらいたいのが人情である。人と人との繫がりが医療の原点であるからで、これだけははかない夢に終らしたくはない。

皮膚移植の応用

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 植皮、云わゆる皮膚移植は形成外科では盛んに行われる術式であるが、美容外科ではめったにみられるものではない。美容外科の手術手技は形成外科から産み出され、形成外科と美容外科は兄弟みたいな関係であるが、植皮は形成外科治療が主体となる。これは植皮に関し、治療目的の限界を表わしているとも云える。形成外科での皮膚移植術は悪性腫瘍や怪我で欠損した部分を埋めるのを目的とするが、植皮が美的条件を満足させるものではないからである。この事は形成外科と美容外科の違いを如実に表している理由にもなる。植皮は身体の機能的面への応用で、美容外科が究極的に目的とする正常できれいな皮膚には成りえない事を示す。例えば、いれずみを取る時など稀に植皮を利用するが、これ等はあく迄いれずみ除去後の醜さを隠す為に用い、正常な皮膚にはならない。一方、昨今、他人からの臓器移植が盛んに行われるようになってはいるが、皮膚移植だけは他人からもらう訳にはいかない移植法でもある。日常、頻回に行われ易しそうで、難しさがある植皮の原点がここにある。

くすりのさじ加減

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 フロイトは多くの医者が知っている精神分析の業績を発表した最初の精神科医である。一方、カルル・コラーはフロイトより年長者で、白内障手術を局所麻酔で始めた眼科医として良く知られている。両者は友人で、共通でくすり(?)の薬理作用を調べあげ、臨床に利用した事も医学の歴史書で数多く記載されている。そのくすりとはコカインである。コカインは鎮痛作用は強くあるが習慣性も強いくすりである。このくすりを最初に用いたのがフロイトとされている。モルヒネ中毒患者にコカインを投与、中毒を抑え、新しい活力を全身に与えようとした。一時的にしろ、この考え方は当時、世に広まっている。一方、眼科医のコラーは眼の麻酔にコカインを用い、当時難しいとされていた眼窩内手術に成功している。両者は後世迄名を残し名誉を得ているが、終局的な人生は違っていた。コカインの局所的使用は局所麻酔剤としての礎になったが、全身投与のコカインはフロイト自身が依存症に悩まされ世を去っている。結局、くすりの使い勝手の妙を示したお二人の名医でもある。

切断された鼻

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 18世紀のフランスの外科医は優秀である。癌転移のリンパ節切除(プティ)、鎖骨々折のデソ包帯法、ショパールの足切断術、今も名前を聞き及ぶ名医が並ぶ。当時の外科手術で以下の要点話も面白い。フランス親衛隊の兵士がケンカで鼻をちぎられた。彼はひるむことなく、鼻を拾い医師に届け、改めてケンカに行っている。豪胆さに呆れるが…切断された鼻を受け取った医師は丁寧に洗い、戻ってきた兵士に再度植えつけ成功した話である。それぞれ仕事柄の特徴が述べられているが、要するに自分の組織は新鮮であれば、例え切断されても元に戻せる初期の外科医のお話しでもある。最近では血管・神経縫合共に微細な外科手技が可能になっており、一般化されて多くの切断指が助かっている事実はあるが…実はもっとも多いのが包丁を扱う職人さんや、台所仕事の奥様方の指のケガである。出血を抑え、急いで病院に来られるが、もし仮に小さな皮膚片であっても流し台で捨ててしまわず、病院にご持参下さった方が良い。容易に移植出来、ケガの治療に役立つからである。

過去から伝わるつぶやきの源

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 ヒポクラテスは以前にもお知らせした事があると思うが…医学の父であるとされ、医学を迷信や呪術から切り離し、経験学として確立した古代ギリシャの医師として有名である。さしずめナイチンゲールが看護師の母、その誓いが看護師の倫理を説くのであれば、ヒポクラテスは医者に倫理性を教え、「ヒポクラテスの誓い」は今でも重要視されている。蛇足ながら私も医学生の頃、大学で校歌の歌詞でヒポクラテスの誓いを歌い、忘れられなく頭の中にこびりついている。長い年月、これだけの息吹を伝えるからこそ父なのであろうと思う所がある。さらに彼は現代風に云えばツイッター、即ち彼自身のつぶやきを残し、医師として心のひだを現在に伝えている。「人生は短いが、技術は長く、チャンスは逃しやすく、試みは失敗する事多く、判断は難しい。」今もって彼のつぶやきが生きているのは彼の洞察力の鋭さを表わしているが、多くのチャンスを逃がし、絶え間ない失敗の上に成り立ってきた自分の人生を考えた時、改めて判断力のつたなさを自覚している現在の自分がいる。

縫合のやり方

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 けがや手術後の皮膚を縫い合せる技術、これが形成外科の持ち味でもある。然し、縫合は基本を覚え、経験を積み重ねれば外科医は誰しも出来る。外科系医者は毎日が縫合と云う仕事に付き合わされているからである。救急車で運ばれた病院で当直医が若い方だったので、翌日、お母様は当院に娘を連れ以下の不安を述べる。「女の子の顔、全く分からないように縫合出来ないでしょうか?」云われて私は正直に「それは出来ません」無下に答えにくい。追い打ちをかけお母様はこう付け加える。「何しろ研修医みたいな先生が縫合していたので…」お母様のご不安は分からない訳ではない。然し、女の子だからきれいに、男の子はどうでも良い、でもないであろうし、救急医にまず感謝の言葉があってもと考える。傷は治りやすい場所と治りにくい所がある。けがの時点でやっかいな裂傷もあり、これ等は医者の技術とは別物である。この見極めが実は傷を縫合する以上に大切で、この事が形成外科医の拠り所、勿論、心優しいお母様方の泣き叫びたい心の傷をも受け止めながら…であるが!

メンテナンス

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 トンネルの天井が落ち、下敷きになった不幸な事故があった。亡くなられた方は偶然の通りがかりで不憫でならない。心から哀悼の意を表さしていただく。原因は度々の報道の通り老朽化しメンテナンスが行き届いていなかった模様である。このような高度成長期に構築された構造物は全国にあるらしく、現在一斉に点検作業がなされていると云うことである。社会基盤の源である上下水道、道路、橋などのインフラ整備がなされてきた日本、再構築の責務が施行責任者に重くのしかかる。一方、医療・介護もインフラの一部であるとの考えは根強くあり、人々の健康基盤が当然あって社会生活が営まれるので自然な考え方と云っても良い。この健康保持のインフラストラクチャーは充分であろうかと云うと心もとない。自己管理にまかされている面が多分に多いからである。年一回の健康診断でさえ行かない方があるのは「なんくるなるさ」では済まされない。貴方の健康が不幸にも害された時、貴方の周辺の方々へ必ず迷惑が及ぼされるからであり、他人への責任転嫁は出来ないのである。

外科医は器具を選ぶ

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 「弘法筆を選ばず」有名なことわざがある。何事にも秀でれば道具に頼らなくても成し遂げられると云う意味であろうか?然し、現代の外科医は多種類の手術器具を選び抜き、日常用いている。極端に表現すると一人びとりの外科医がそれぞれに好む医療機具を用いていると云っても過言ではない。西暦30年頃使用された古代ローマの外科器具も多数発見されているが…それ等の何十倍に比する医療機具が現在はあり、医療機械屋さんと呼ばれるメーカーが各科毎に特殊器具を取り揃えてくれる。器具や針の長さ、角度の変更など外科医のオーダーにも心良く応じてくれる。プロゴルファーがクラブのちょっとした部分をメーカーに修理してもらう様なものである。古代ローマのケルスヌと云う外科医の第一人者は、その上で外科医の素質として「目が良く左右の手を同じように扱い、豪胆である事、患者さんの泣き声、あわれる心を抑え・動揺せぬ事」と問いている。云いかえれば今もって外科医は器具を選びすぎ、弘法にはほど遠く、神の足元さえみえない存在でもあるのであろう。

皮膚移植の先駆者達

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 ルベルダンやチールシュ植皮術は私が医師国家試験を受験する時、頻回に耳にした名前である。今ではほとんど顧みられなくなったルベルダンやチールシュが考案した皮膚移植法であるが…。形成外科医になって、改めて植皮の歴史を見直すと彼等に感嘆させられる事は多い。スイスの若いインターン生、ルベルダンは火傷に小さな表皮を移植すると生着すると報告し、5年後、今度はベテラン外科医のチールシュが厚い皮膚でも皮膚移植は可能であるとルベルダンの業績を高く評価補完させたのである。偉大な業績は偉大であるがゆえに、その成功の優秀さに気付きにくい。第二・第三の追試があって、初めて先駆者の業績が高く評価される源となる。あの時代から1世紀半、現代はさらに巾広い皮膚が移植可能となったが、この方面でダーマトームと言う植皮器械を日本に導入したのが大森清一博士であり、顕微鏡下での組織移植を世界に最初に発表したのが波利井清紀氏である。然し、お二人が数年間、沖縄に関わり積極的に患者さんへ植皮術をし、貢献した事実はあまり伝わっていない。

新年の誓い

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 アメリカで、ある女性が自動車を盗まれた。おまわりさんには盗まれた車内に携帯電話を忘れていたのを伝えていた。機転の効くおまわりさんはその事を聞いて、すぐにその携帯に以下の電話を入れた。「こちらは宝くじの勧進元ですが、貴方様の携帯番号が当選しました。お支払いしますので〇〇へ来ていただけますか?」ノコノコ出てきたこそどろを容易に逮捕出来たのである。オレオレ詐欺の逆パターンである。先日は故スティーブ・ジョブズ氏のコンピューターが盗まれた。然し、容疑者がそのコンピューターを使用していた為、警察は犯人の居場所を簡単に突きとめ逮捕している。世の中このような間抜けな盗人ばかりとは限らない。最近は知能犯が多く、当院へスパムメールばかりが入ってくる。その為、本当に重要な問い合せのメールを探すのは骨がいる。何と便利なようでバカバカしい世の中になってきたのか?となげていたら、新年が来た。気分も新にと!祈っているが…。年々知能指数は下がっており、自分のオレオレ指数はいつあがるのか是非神様に聞いてみたい。

肥満対策

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 健康診断を加齢の節目に義務づけているのが日本の実状で、病気退治は予防からが眼目にある。然し、現在この予防対策の方法でニューヨークのブルームバーク市長はハンバーガーやコカコーラ会社と激しくやり合っている。来年3月から470ml以上の大きい甘味飲料を市長が販売禁止と条例で決めたからである。確かにアメリカの方々は太り過ぎ…合衆国に入ってみるとすぐ分かるが、ニューヨークは大人の肥満が人口の半分を超え、その為の医療費が3200億円(年)となると市長も重い腰をあげざるを得なかったのであろう。沖縄の人もアメリカ食に馴れ親しんだ何十年の過去を振り返ってみると同じ徹を踏む事は容易に察しがつく。甘味飲料水を飲むのが何故いけない、個人の自由であろうとする意見もある。…が然し、引き起こされる医療費の増大は国の財務が圧迫される。日本の公的医療費もパンク寸前で、消費税アップだけでこの問題の解決が難しい。…と思いながら、自分のお腹を見る限りに於いて、アメリカの方々への批判を含め書きゆく筆の先が鈍くなる。

云うは易しく

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 歴代の著名人は云いえ妙なる名言を残す。改めて読んでニヤリとほくそ笑む名言は多々あるが、今回は昨今の政治家不信から云えるのをひとつ下記に示してみよう。「云って欲しい事は男に頼みなさい、やってほしい事は女に頼むべし」鉄の女、英国の保守政治家、マーガレット・サッチャーならではの言葉である。さしずめ、現代の男が作った政治家のマニフェストは言葉だけだと云っているようにも聞こえて妙である。再選を目指すオバマ大統領も“ Yes We Can ”だけでは、過去4年間の仕事をみると次はおぼつきかねると思うのだが、如何であろうか?医療の世界も似たようなもの。男医が多かった過去から現在はすでに医学生の4割は女性が占めている…となると、成し遂げられる病気治療の成功率は今後、女医さんの腕前に左右されそうな勢いでもある。口で云うほど病気の根治は易しくないが、日本の病根を治す役目の政治家も同じ事が云える。「云うは易しく、されど行うは難し」改めて思い起こされる昨今の社会風情であり、己の自戒をこめて一筆したためてみた。

年々増加する怖い現代病

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 貴方は「ノモフォビア」と云う病気にかかっていませんか?最近では3人に2人がこの病に陥っている研究発表がイギリスでありました。沖縄でも若い方を中心に、年々増加しているようです。怖いですネ。貴方は如何ですか?思い当たる節はありませんか?実は医者である私もこの病にかかってしまったのです。やっかいな症状で怖いのです。フォビア(Phobia)は恐怖症と云う意味なのですが…。例えば恐怖症はアクロフォビアと云います。現代の社会現象ともなっているこのノモフォビア症候は、常に携帯電話を持ち歩いていないと不安になったり、恐怖に襲われる心の病を云い当てているのです。ノー、モービルフォンの事を指し、携帯電話をなくしてしまった時の不安、どこに置いたか忘れてしまって恐怖に陥っている貴方はすでに怖い病気にかかっているお話しなのです。すごい現代病が蔓延していると云う事が云えますネ。治療法?ですか!それは貴方自身が見つける事です。携帯電話会社もお医者様も関与出来ない貴方自身の心の中に潜んでいる病だからです。

メイヨークリニックから教わる事

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 最近、外国の医学会に参加する事が少なく、その為、理由を自分なりに考えた。仕事、雑用が多く、外国の学会へ参加してもあまり得るものがない?日本の勉強会も沢山あり、それだけで手一杯である…等々。そのような事を思い浮かべながらのある日、日野原先生が訳された「メイヨー兄弟の格言集」を読んだ。ページ何行目かに「外へ旅する一番の目的は自分を向上させるにあり、旅先であら探しをすることではない」と記されてあった。メイヨークリニックは田舎町のクリニックではあるが、ハイレベルの総合医療を打ちたて、組織的近代医療を確立された病院として世界的に名高い。私には遠きにありて、本でしかその詳細を知らないが…日野原重明先生が推奨してやまないのも、内容を読むにつれて理解出来た。ページをさらにめくっていくと、「偉人から得るのは医学的技術ではなく、崇高な精神を学ぶ事が大切」と記されていた。年をとると保守的になりがちだが、読み続けるうち重い腰を上げ、明日にでも良い所を探しに外国へ旅してと云う気になってしまった。

リンゲル液の大切さ

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 「リンゲルを打ちましょうネ」…看護師さんに云われたら、お年を召された方なら点滴(電解質)の事であるのをご存じである。医療の進歩は多くの偶然が重なるが、リンゲル液の発明もそれに似る。大塚製薬の同薬報によると、現在の電解質液は動物実験中に英国医師、シドニー・リンガーの弟子が誤って使用した水道水が起源であると記載されている。カルシウム・ナトリウムなどを混ぜた、いわゆる電解質、生理食塩水が「リンゲル液」の源となっている。その割合は時代と共に変遷を重ね、リンゲル液の発達で心電図が開発され、現在ではスポーツドリンクへの応用となるのは興味深い。但し、何事も偶然のみで全てがうまく運び、ここ迄の発展に至るのではない。そこには何故、誤って使用した水道水が心臓に力強さを与えるのか?限りなき探究心があって始められた偉業である事は間違いない。当院の若い看護師さんに聞いてみたら、リンゲル液を知らなかった。我々、医師は新しい医学を学ぶと同時に、過去の偉大なる先駆者の足跡を知る事こそ学びの尊さを知る事が出来る。

細菌学者と外科医

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 近代外科手術に大きく貢献したのは、麻酔の進歩と無菌法の2つである。今回は手術室の無菌法の始まりについて記述してみたい。ジフラリア・コレラ・ペスト、細菌への挑戦に勝利を導いた一人がフランスのルイ・パスツールである。彼は空気中に種々なる細菌がいると発表し、伝染病の撲滅に貢献した大家であるが、この事に注目したのがイギリスの若き外科医、ジョセフ・リスターである。当時、術後の感染症で亡くなる患者さんは多く、外科医の悩みの種であった。パスツールの研究を聞いたリスターは、手術室全部に防腐剤を撒けば空気中の細菌はいなくなると実行した。後日、術後の感染が極端に減った結果、リスターはパスツールに感謝の手紙を送っている。最近は空気感染と共に、接触感染を防ぐ無菌法へ流れは変化したが、大学など手術室の幾つかに、部屋中すべて無菌と云う特殊な手術室があるのはその為である。フランスとイギリスが戦っていたナポレオン時代、パスツールは「科学に国境はないが、科学者には祖国がある」意味深長な言葉を残しているのは興味深い。

消費税におけるジレンマ

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 現在、世間を騒がしているのが消費税であろう。増税目的は社会保障の充実であり、生きていく最低レベルの保障は国の責任で、我が国の憲法にも記載されている。さて、生活上の困窮をカバーする制度は、生活保護、年金、介護や医療の分野となるが、一見してお分かりの如く、これ等はすべて国の役目で法的枠内で運用される。然し、社会保障を支える介護や医療は国のシステムなので値段は点数で決められるが、運営は独立採算性が強い。云いかえれば、公設民営のような公的保険制度だから、消費税問題となるとややこしい。つまり、介護、医療施設は器具、薬剤の購入時に消費税を払うが、介護や病に苦しむ方々から消費税を頂く事が出来ず損税となる。その為、社会保障への消費税補填は介護・医療施設で痛し痒しを背負う。一方、国策の動きによって揺り動くシステム下で働くより、自由診療を求め多くの医師が美容市場を目指す現実がある。然しである。美容医療の対象は患者さんではなく、お客様ゆえ、最終消費者の方か消費税を頂く事になり、痛し痒しなのである。

オリンパスの事件

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 オリンパス社は損失隠しで社会的批判を浴びている。不透明な取引と会計処理は株価も暴落し、経営陣の維新も伝えられる。医療界でも青天の霹靂で、無関心ではいられない。援護する訳ではないが、同社の内視鏡等々は医療界で高い評価と実績を誇っているからである。ライバル会社はこの時とばかりシェアーの拡大を目指すが、追いつくのは容易ではない。それほどオリンパスの手術用顕微鏡や内視鏡カメラは優秀であるが、実は医者の間でオリンパス愛用者が多い理由はそれだけではない。原因は人海戦術によるフォローアップシステムが素晴らしいからである。技術者を含むサポート体制は、機具の不具合があるとすぐかけつけ、いかなる時にも手を貸して下さる。又、使い馴れる迄、訓練もする手の込みようで、ライバル社との差は明らかとなる。私共も時に医療機械を購入するが、治療中の不都合に手を焼く事しばしばで、代替機などの対応がスムーズでないと混乱する。このような末端職員の日頃の努力を無にした同社の執行部は、医療界からも厳しい目が向けられているのである。

温故知新の美容外科

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 少しの昔、沖縄にブーブーと云う習慣があった。胎毒等(?)をとる為、カミソリで小さく切開、出血させる用法である。今ではほとんどみられず、若い方々にお聞きするとブーブーを全く分からなかった。然し、美容外科では静かにそれに似た事が行われている。ローラーの先に小さな針があり、それを小皺に当て、出血させると小皺がとれると云う理屈である。理論的には小出血によって傷を修復させる種々な成長因子が出てくるので、小皺改善に効果があるらしい。クレオパトラは39才で亡くなっているが、彼女の顔には金の糸が埋められていた。その事から金の糸の研究が始まり、1999年ロシアで「金糸(特殊外科糸)によるアンチエイジング」と云う論文が発表された。皮膚の中でコラーゲンやエラスチンなどが増え、若返りに対する自然治癒力が働くと云う理論らしい。但し、CTやMRIに映し出されるので、充分なご理解のもとでないと後でやっかいな事にはなる。この二つの療法、現在、大流行ではあるが、いずれにしろ温故知新に似た様な事が美容外科にも存在する。

医学の父

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 ヒポクラテスは紀元前5世紀に生まれて遠い遠い昔の方である。でも「医学の父」と云われ、今でも尊敬に値ある医者である事には違いない。彼の経験した医療の数々、記載されている病歴・治療の方法、今でも…手を加えなくても現代の医学教科書に載せても何等おかしな事はないとされている。医術は迷信や呪術ではないと主張した最初の医者でもある。昔を考えるとそれだけで医学の父の資格充分であるが…。彼は以下の如くに弟子達に教えていると伝え聞いた時に彼の洞察力のすごさに感じる。「外科医は常に手術道具を使えるようにしておく事、すぐに持ち運びが出来るように整理し、点検しておく事」…を命じている。当時から外科医は昼夜の区別なく急患が来るので直ちに対応出来るよう心構えを教えていたのである。治療法も常に自然の治癒力を信じ、出来るだけ簡単な処置法を選択している。それは解剖生理学に準じて行なわれ、骨折・脱臼治療なども理にかなっていたと云う事であるから、私など彼の爪の垢が残っていたとしたら煎じて飲んでみたいと思っている。

ユニフォーム

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 スティーブ・ジョブスさんが晩年愛用していた黒のタートルネックが評判で馬鹿売れしてる…巷間、噂で聞いた。三宅一生氏のデザイン、彼は100着も注文したと聞くとビックリする。然し、職員にユニフォームとして採用させたら反対が多く、結局実現していない。人にはそれぞれ好みがあり、職種には適したユニフォームなどもある。アイデアがあり、天才児の彼がその辺を見抜けなかったのかどうかは…凡人である私にはそれこそ見抜けるものではない。医療現場でもいつしか看護師さんの象徴であるナースキャップは見られなくなった。忙しい現場では不要のものとなったのであるが、始めて病院を訪れる方には医療の職種が分かりにくくなっている。医師の白衣も診察時に良くても、種々なる処置を瞬時にやらねばならない外科医にとっては不便この上もない。それ故に手術着で過ごすユニフォームが自分には個性的服になる。この作業服、三宅一生作でもなく、私が死んだら馬鹿売れするか定かではない…が、丈夫で長持ちしてるのは確かである。

鼻を作り出した第一人者

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 近代ルネッサンスはイタリアで起り、ヨーロッパ全土へ広がり「人類が自然環境と人間に目覚めた時代」、文学と芸術に始まっている。1543年、コペルニクスが地動説を唱えた時代でもあるが…。実は「医学」のルネッサンスも同時期に始まり、美容形成外科でも大きな仕事がなされている。イタリアのタグリアコッチが作成した造鼻術は有名で、形成外科の歴史的教科書には必ず彼が手がけた図形が載っており、美容形成外科医は目に焼きつき記憶させられている。組織移植に欠かせないのは栄養血管の確保が基本であるが、当時の造鼻術にもこの基本が生かされている。脈々と現在まで受け継がれた移植外科学の源がそこにはあり、あの時代、決闘で削ぎ落とされた紳士の鼻を造り治していたのである。今でこそ鼻作りに女性の要望は多いが、事の始めがルネッサンス時代から…と云うのは興味深い。但し、16世紀最高の医学者であるタグリアコッチの業績が見直されたのは19世紀に入ってからであり、地動説を唱えたコペルニクス同様、長く長くうずもれていた歴史がある。

救急車の創始者

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 ナポレオン軍に偉大な外科医がいた。ナポレオンは「私が知る限りではもっとも得の高い男である」と彼を評している。彼は軍医ゆえに66の戦闘と400の交戦に参加し、彼の遠征記録は5巻からなる著書にしたためられ、歴史的な重大な出来事が幾つも記されている。ここでは医療に関する事柄を示してみたい。戦場に於ける医療の処置室は通常、後方陣地に備えられているが、彼は初めて馬車による軽量の救急車を考案し、戦場を走り放置された負傷兵を運び、後方で急ぎ治療してる。又、寒冷地方での外傷治療は冷却が化膿を防ぎ、疼痛軽減効果がある事に気づき、後の冷凍麻酔などの研究に役立っている。幾多の戦場に出ていた彼は当然の如く自らも負傷し、遂にはワーテルローの戦いで敵国に捕らえられている。然し、相手国の外科医は彼の名声を知っており、かつ敵国兵も助けていた事実が分かり、銃殺刑を逃れている。その後、ナポレオン軍のフランスは破れたが、多くの兵士はこの外科医を忘れる事はなかった。彼とは歴史に残るフランスの名外科医、ゴミニク・ラレーである。

医療ツーリズム

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 魅力ある言葉ではある。韓国は国をあげて取り組んでいるし、旅行業者が美容外科のツアーを組んで韓国まで案内するとも聞く。沖縄でも検診事業で医療ツーリズムを取り組み始めている。でもである。医療が外資稼ぎの産業として成り立つには多くの壁がある。他国が積極的にやっているから、すぐに取り組めるほど簡単でもない。その理由は、常に手術や健康診断は追跡が大切なのである。国を隔てるとこれが難しい。当院にも某国の手術でやっかいな状態になって来院される方もいる。直接主治医に電話しても片言の英語では…詳しい手術内容がほしい当方にとって何の益にもならない。ただでさえ難しい術後のトラブルは術前、術中を考慮し改善を計る。然し、海の彼方の情報は得られにくいし、健康診断も単年度ではあまり意味をなさない。外地で受ける処置は帰国後のフォローをどうするのかで決まり、その為、患者さんをないがしろにしないように前医と後医の専門的レベルを合せ、各国の連携が必須なのである。焦らずに外壁を取り除く事が医療ツーリズムの第一歩となる。

ピアスのトラブル

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 現在の若者、特に女性の方で耳垂ピアスをしていない方は稀である。この耳ピアス、一説では最古の外科手術とも云われている。耳飾りを含めて古代エジプト、ローマ等の遺跡からも多数、壁画の中にピアスの女性がみてとれる。当時は悪霊から身を守るものとされていたようであるが、現在は装飾的なおしゃれとなって久しい。又、観音菩薩増や阿彌陀如来増にも耳に穴がみられるのは、高貴なものを身につけて自分自身を高めようとしたのかもと考えた。古代インドにあるススルタ大医典では無知な外科医があけるピアスは出血を伴いトラブルを生むと記載されているが、実は現代医療でもピアス完成迄には幾多のトラブルがある。最古の外科手術と云われながら手法完成までにまだ解決されねばならない感がある耳垂ピアスであるが、外科手技の難しさが表現されて興味深い。このようにピアスをあけるのは容易だが、化膿やケロイド等々発生した合併症対策に頭を痛める美容外科医の日常があり、古代外科医典に穴をあける記載はあってもトラブル後の処置方法に記載がないのが残念だった。

男女差

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 欧州司法裁判所が自動車の保険料に男女差があるのは違憲であると保険会社に是正を求めた。実はヨーロッパの保険会社としては男性より女性の方が事故率が少ないので女性から頂く保険料は低く査定していたのであるが、裁判によって女性の保険料が上り男女差がなくなるとこのニュースは伝えた。これは誰しもが女性に同情する。当然の事であるが、同じにするのなら男性を下げるべきと云う意見もある。この裁判は今後、生命保険料、年金の受給額にも影響するであろうから更に影響は大きくなる。我が国でも労災保険の後遺症等級で、これ迄女性の顔の傷は男性より重要であるとして後遺症の保険料は女性が高かった。…が最近修正され男女差はなくなった。実は形成外科領域では労災や自動保険は関係が深い。交通事故後の傷跡の治療・処置を頼まれる事が多く、処置内容についても保険会社と交渉したりするからである。然し、傷を治す立場の我々は男女どちらであっても同じようにきれいに治療をし、同じ料金設定は当たり前、裁判所に改めて指示される筋合いのものではない。

外科の基本

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 ラジオ波やレーザーで皮膚を切離、腹腔鏡や顕微鏡を利用して手術するようになってきている昨今の外科手術には、新たな時代を迎えた進歩がみてとれる。過去の外科学の歴史を紐解く迄もないが、数々の進歩の過程に3つの基本が横たわる。解剖学の熟知、麻酔の研究、無菌的やり方である。外科手術は無数にあり、それぞれの専門医とチーム医療が存在するが、前記した3つの基本を知らなければこれ迄の発展もなく、これからの進歩もあり得ない。この3つの基本こそが外科学の進歩に寄与し、診断方法の進歩と共に外科治療の巾を広げている。このように目覚しい歩みの過程があるのに不思議な事ではあるが、今もって人間の身体のしくみ、いわゆる解剖生理学でさえ分かっていない事は山ほどあるのである。貧欲な医者ほど寝る間を惜しみ、医学に勤しむ外科治療にも創意・工夫が必要となるので面白い面も又生じる。然し、どのようなアイデアも基本を奥深く知ってこそ生まれ出るので、メス使いや縫い方がうまくて早いだけが外科医でもなく、褒め言葉にもならない道理である。

心の豊かさを求めて

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 一度は誰しもギャラップ調査と云うのをお聞きになった事があるだろう。米国に本社を置き、特に政治について世論調査を行なう企業である。正確性があり、その結果については世界の人々が信頼をよせる。昨年、そのギャラップ社が155ヵ国を対象に住んでいる国民自身に生活満足度調査を実施した。驚く事にデンマークがトップで、フィンランド、ノルウェー、スウェーデン、オランダと続く上位5ヶ国は全て北欧圏なのである。経済的発展のみならず、衣食住、医療、教育などの基本的ニーズが満たされていると云う事であり、アメリカ大陸の中ではコスタリカのみが上位に来て、英国17位、日本は82位である。税金の高さや生活水準など種々なその他の要素はあるのかも知れないが、世界的な経済不況で資本主義社会のあり方が問われる日常の生活、心の豊かさに多くの人々が関心を持ち始めている事に政治は早く気付くべきである。ゴタゴタが続く日本の政治家諸君へ「君達自身が心の安定をもって、この国を豊かに導いて欲しい」…一人の美容外科医がつぶやいた。

回診

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 回診と云う言葉は医療従事者なら大方の人はご存知である。付け加えるなら病院で入院した事のある方は覚えておられる事でもあろう。有名なのは白い巨塔に出てくる教授回診で、先輩医師に若い医師がつらなって患者さんの様態を診て回る様である。一人びとりの患者さんの様子を診て回りながら、教授が弟子に教えるひと言などは重要でためになる場合も多く、一概に無駄な事ではない。実は回診にも種類があって、夜間の病棟当直は一人で入院患者さんを診て回る。多い時には100人位の方を1~2時間の間にチェックしていくので、その把握は容易ではない。私には忘れてはならない教訓がある。悪性腫瘍の方に夜の回診、顔色だけをみて「元気そうですネ」…と声かけをしてしまったのである。即座にその方から返ってきたお言葉は厳しいお叱りのお返事であった。「カルテを詳細に見て、患者のすべてをチェックしてから回診して下さい。表面だけの言葉がけではいけませんよ」苦いお薬であったが、尊いお薬を頂いたと今でも思っている。30年前の辛い思い出である。

眼力

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 私は肺癌であると診断された事がある。気管支鏡や組織診断を含めての決定であるように思えたので落ち込んでしまったが、「たばこも吸わないのに…」と嘆いた一時期がある。手術してまで治療するかと思い悩んだが、念の為、先輩である肺癌専門の先生にもう一度診断をお願いしてみた。「大丈夫でしょう」確信に近いご返事を頂き、その後10年余生き延び医者の仕事をしている。我々美容外科医は豊胸術を手掛ける事が多いが、術後のフォローも大切である。特に昨今は女性にとって乳癌検診は社会的責務とも云われ、使命感さえある。その為、私も豊胸術後の患者さんの乳癌検診を玉城先生にお願いする事は多い。的確に診断して下さるので助かるが、美容外科とて手術のフォローは重要なのである。ある時、玉城先生に日頃のお世話のご挨拶をしたが「癌であると云う診断より癌ではないと診断をつける方が難しい」…とお言葉を賜わった。なるほどと思わずにはいられなかったが、その時、遠い昔、肺癌ではないと云い切った眼力のある源河先輩に改めて敬服の念を抱いた。

病医院への指導監査

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 病医院の許認可業務を司る行政は県の福祉保健部であるが、現実的な監査は保健所が行なう。保健所は管轄範囲が広く、院内で余程の不祥事が起らない限り指導は行なわないが…実は病医院側が嫌がるのが社会保険庁に於ける保険の監査指導である。日本の健康保険制度の維持にはおおよそ1/3位の国税が投入されているので、血税が正しい使い方がなされているのかを調べていくのは当然の事である。調べ方としては2通りの方法がある。ひとつは1枚毎のレセプト(病院側からの請求書)の審査であり、もうひとつは社会保険庁からの直接指導である。然し、全ての施設を調べるには時間と人手が必要となる。そこで十年前から調査方法として考え出されたのが、平均して治療が高くなっている施設の個別指導と云う方式である。これは常に上位4%の高点数病医院を調べるが、悪い事はしていないのに指導を受けるので、調査される側としては心外である。但し、誤りの施設もあるので文句も云い難く、難しい手術をして高点数になり逆に調べられる我々にとっては荷が重い制度でもある。

ラジオ波治療

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 携帯電話などで使用されている電磁波!その一種であるラジオ波(RF)とも呼ばれ、最近では医療界でも盛んに使われる。利点は幅広い高周波波長を使用出来る点にあり、今後の発展はレーザー以上の効能が期待される。我々の得意とする美容外科では、皮膚深部にターゲットを絞ったお肌の引き締め効果や手術の剥離、止血など外科治療にも良いとされ、巾広い利用価値がある。過去に我々はライブサージャリー、いわゆる公開手術でこのラジオ波による皮下層の剥し方、止血の実際を専門医にお見せし、実践させて頂いた。取り扱いにコツはあるが、確実に止血でき、皮下組織のダメージは従来の電気やレーザーメスによりはるかに少なく、術後の痛み軽減に繋がっている。然し、このラジオ波装置持ち運びが出来、痩身にも利用出来るのでエステのお客様にも喜ばれあっちこっちと奪い合いの日々である。昨今は赤外線、レーザー、光治療、超音波、ラジオ波と種々な物理学を応用した医療技術が開発されつつあり、医学だけにしがみつく訳にはいかない医療がある。

竹の天井

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 聞きなれない題名、名称です。意味は日本における女性の社会進出、とりわけ管理職への登用の難しさを示す用語のようです。欧米では「ガラスの天井」と表現し、女性等の管理職への昇進を拒む目に見えない壁を指します…が、日本では竹のムチのように、男性の壁が破れそうで折れにくい現況を指しています。男社会への皮肉っぽい云い廻しと云っても良いでしょう。世界経済フォーラムで男女平等指数が世界でも低く位置づけられている日本なので当然とも云えましょう。然し、美容外科領域では違います。たくましく常に世間へ発言力を続ける女性リーダーが目白押しです。「お肌の美容治療」なるシンポジウムですとひな壇には美しい女医さんがシンポジストとして熱弁を奮っておられもはや男性人の入り込む余地なしの雰囲気です。驚く事のひとつは、新しい治療器は必ず自らのお肌にお試し後、自在に扱い始めるお姿には「しなりの強い竹使い」の感をもちます。男医も負けず、彼女等が張り巡らせている華麗なる天井を破らねば…と意気込んではいますが?

医療コンフリクトマネジメント

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 医療ほどトラブルが多い職業はない。長い年月、医者をやってきた実感である。明らかに他の職業とは違うが、世界の人々は他の職種同様に医療は「商い」であり、「サービス業」と云う意識は高い。反論の余地はないし、サービスへの配慮も大切な事であろうが、それ等が改善されても恐らく医療トラブルは完全にはなくならないであろうとも予想される。医療行為は常に不確実部分がつきまとい、人様の身体にある程度の損傷を伴う行為であるからである。結果論は容易であるが、結果の前、つまり治療前に予想される全てを把握する事が出来ないから厄介で、かくて、説明不足だ!セカンドオピニオンを求めよ!誠意がなかった!医療ミス?等々トラブルが生じる。弁護士や裁判所さんが忙しくなる訳である。…が然し、裁判になる前に冷静な第三者を入れ、解決策を話し合うのが、「医療コンフリクトマネジメント」である。立ち上げにご苦労なさっている善意ある弁護士さんや関係者の方々の熱意に頭が下がる…が、裁判とは違う和解行動の第一歩が始まりつつある現場である。

医療と政治

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 学会が多すぎる…と昨今、多くの医者は思っている。専門分野が次第に細分化されていく為である。例えば「手の外科」の専門医が出来たと思えば「足の外科」の分野、フットケアや爪の専門医まで出現する。細かな医療の枝分かれの結果は週1回全国のどこかで勉強会が開催されている計算になる。日進月歩の医療は急がしい医者をより忙しくさせてしまう要因を生む。出席する学会の選択をしないと手持ちの時間を有効に使い切れない。そのような折、東京で東洋美容形成外科なるものが開催された。東南アジアの医師へ呼びかけ20余年の歴史がある。欧米人と東洋人は肌質が違い、欧米とは違う美容外科の模索をしなければならない。東南アジア諸国の美容形成外科医と手を取り合って切磋琢磨する歴史ある学会となっている。然し驚いた。今回は中国の医者が全員不参加を決めた。尖閣列島問題は遠い政治の世界と思い込んでいた浅はかさを思い知らされたのであるが…。孤立を深める結果となる今回の中国医師の決定、爪のあかを煎じて飲んで、立ち直りに期待したい。

改ざん

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 改ざんとは元来、文字や語句を書きかえる所からきているが…コンピューターの故意入力も含まれるようになってきた。大阪地検問題は記憶に新しく、被疑者とされた厚労省元局長にとって非難ではすまされない問題を含んでいる。米国でも今年の初頭、農務省役人シャーリー・シェロッドさんが悪意あるインターネット報道で辞職願を出さざるを得なかった。彼女の発言内容が歪曲編集されウェブサイトに掲載されたのである。後日、事実誤認に対しオバマ大統領は直接彼女に電話で慰め、ビルザック農務長官は謝罪し新しい職場を提示している。医療に於いてもカルテ改ざんは強く戒められている。誰もが読みやすく記入しやすくなった電子カルテは逆にパスワードの管理をしっかりし、基本的な3大特徴、真正性・見続性・保存性などが大切になってくる。但し、電子カルテは何日迄に入力すべきかと云う問題が残っている。治療で忙しいとその日にカルテを完成出来ず、後日に記入し時間差が生じるが、今回の事件は記入日時を変更しているので、誤解を防ぐ事務作業が増え続ける医療現場である。

医原性疾患

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 難しい医療名であるが、大方の医療従事者はこの意味を良く知っている。医原病とも云われ、医者などが治療によって作り出してしまう病気の事である。つまり「病院に行きさえしなかったらかからなかった病気の事」であり、具体的には予防注射を打たれた為に逆に重い病気になったり、ペニシリンショックなどは良く知られている。ある面、治療のリスクによって発生しがちなので、やむを得ないと迄はいかなくても以下の事例よりは罪は軽い方かも知れない。美容外科は、そうはいかない。美しくなるとして「金の糸」を宣伝するが、これは体内で移動し、しこりとなるリスクがある。取り出す事が出来ずMRI検査なども慎重にやらねばならない。金の糸を入れた為の医原性疾患が生じるのである。医者がやった訳ではなく、自分自身でやって困ってしまった病気もある。軟骨ピアスで生じたケロイド、手背に作る根性焼きなどである。年間1兆円の医療費の伸びが出るのも道理であるが、仕分けの難しさはここにもある。

利他行動

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 美容外科は応用科学が多い。昔々、術式の応用を発表したが、恩師から「それは君、猿チエだよ」一瞥で却下された。悔しかったので、人間の医者になるにはどうすればと原点を考えたが、猿は「手伝って下さい」と仲間が云わない限り手を貸さない事を思い出した。反して人間は相手が困っている時、頼まれなくても手を貸すが、相手の痛みが分かっているからで、これを「利他行動」と云い、猿にはない人間の偉さ(?)でもある。私が若い頃出した独自の治療アイデアは確かに浅知恵に違いなかったが、人間としての行動であり、猿とは違う面があるのが分かり、内心ほっとした。医者として出来るだけの利他行動を起したつもりなのである。恩師に対する反論の根拠を今頃探しても既に彼はこの世にいないが、今では悔しさを通り越し懐かしさだけが蘇ってくる。沖縄に帰って数十年、ウチナーンチュが持ち味とするユイマールは正に人間だけが持っている利他行動であるとの認識を強く持った…が、この島もユイマールがなくなると猿の孤島に成り果てるに違いないと反省した。

酔っ払い注意

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 お酒を飲んで車を運転してはいけない。飲酒運転の禁止は次第に社会生活に秩序化されているが…時々、我が病院の前で昨夜の深夜から早朝まで寝込んでしまっている方々がおられる。病院の表玄関であるので、営業開始前には立ち退いてもらわねばならない。前後不覚で安らかに寝ている方を手荒に起す訳にもいかず、看護師さんは時としてお巡りさんに応援を頼む事さえもある。私の委員は地理的に松山の繁華街に近く、小さな囲みの駐車場スペースもあるので飲み人にとって恰好の休み場所ともなっている。昼間は激しい交通量で事故の難所でもある。道路に寝られるより良いのであるが…。ある日のニュースで驚いた。ルーマニアでも道路での飲酒寝が多く、酔っ払いの交通事故は多いらしい。その為、「酔っ払い注意」と云う公的な立て看板が立てられているようであり、どこの国でも同じ現象はあるものだと感心?する。但し、当院前の酔っ払い寝の方は若い男が多いのは気になった。それは沖縄の将来を憂いてではない。若い時分の自分の姿をそこにみて恥ずかしいのである。

3度目の正直

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 専門書、読むべきではあるが…医療は難しい本を読んでも、すぐに身につくものではない。頭で理解するのと、身体で体験するのとでは遥に違うからである。医療が医学と違い経験学と云われる所以はこの辺にあり、現場の医療では患者さんから得るものは多くある。然し、その患者さん自身も結果が長引くと別の医者に心変わりをするのも昨今の特徴である。患者さんからすれば当たり前のことでも、悪い結果を与えた医者は結末が分からないだけに反省する機会が少なくなる。云いかえれば同じ過ちを又、繰り返してしまい臨床の場で大切な勉強の機会を逃してしまう事になる。そのようなある日、貴重な経験をさせて頂いた。あの方の手術は過去二度の手術とも上手くいかなかった。お詫びのしようがない結果であったが、三度目の時、患者さんの方から提案された。「もっと良い医者を紹介し一緒に再手術をやって下さい」その後、優秀な友人と三度目の手術をし一定の術後評価を得、ほっとした。…が、何より私を成長させて下さった患者さんに今もって感謝し手を合せている。

逃亡者は誰だ

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 1990年に発生した足利事件は暗い影を現在も残しております。この問題は当時の資料保管等の未熟をも同時に見せ付けたと云っても良いでしょう。同じ様に1985年、米国人ソニエさんは血液型とDNA鑑定から犯人とされ、その後、再調査(再度のDNA検査)で無罪が確定するまでに23年を要しています。ソニエさんの頃も採取資料等の管理体制に不備があったと推測されました。遺伝子は蛋白質ではなく個人の特質を示すDNAから成ると云う当時の医学発表はセンセーショナルでしたが、真の意味で応用の手順が生まれ出たのはその後数年経ってからです。美容医療でもレーザーや顔に糸を埋め込めば簡単にしわとりが出来るなどの発表は人々の関心を深めますが、効果の程度がどの位あり、リスクは?など分かりにくいものです。きちんとした環境整備が出来たら利点が生かされ、逆にDNA鑑定で多くの冤罪者が現在では救われつつあります。逃亡者(ハリソン・フォード主演)のモデルとされた、ドクターシェパードもDNA鑑定で実は救われているのです。

オバマのアイスクリーム

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 オバマ大統領の東京演説、冒頭部分で幼少期に訪れた鎌倉でアイスクリームを食べた話から入った。彼がどのような話をされるか集まった方々は緊張し、固唾を呑んでいたが、会場はその一瞬「どっと」湧いて喜んだ。当然、その後は沖縄の基地問題や核廃絶に触れたのではあるが…。軽い会話や嫌味のないジョークは初対面の相手を和ませ、お互いの距離を一歩近付ける作用をなす。その意味で世間のリーダーは、対話せねばならない相手の身上を前もって調べ、それなりの会話を用意しておく。医療にはこの配慮が少ない。医療こそは相手の立場を思んばかっての会話が最初になければならないが…である。診察室で初診の患者さんに「今日はどうなさいましたか?」いきなりお伺いするときょとんとする事が多い。医者であっても自己紹介から始めたり、季候のお話しから入っていくと親近感が出る。大統領はアイスの話を1回、日本ですれば済むが医者は日々相手が違いクリーム話を何回も繰り返し、緊張している患者さんの気持ちを解きほぐす事が肝要なのである。

オバマの医療保険改革法案

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 219票対212票、7票差で可決された。何も決めきれないと云われていた米国会議が、僅差にしろ票決を下した訳である。オバマの勝利とも云えるが、真実は低所得者層の勝利である。クリントン時代から幾多の難関を経て、やっと米国も健康への道は平等であると云う点で先進国の仲間入りを果たしたとも云える。米国の無保険者は3~4千万とも云われ、過去にこれ等の人々が病気になった時、失業し家庭崩壊へと辿ってきたのである。自由社会は競争が原理ではあるが、さりとて敗北者に無残な人生を送らせてはなりません。今回の米国型公的医療保険制度は大企業の責任がより明瞭になり、従業員の健康を守る為の支出を余儀なくされるが、一方で医療関連株が値上がりするとの予想もされている。然し、何よりも喜ばしいのは働く人々で、病気になっても一定の安心が得られ、職場が変わっても米国公的保険が持続し使えるのである。国の安全保障は有時を想定するより、国民平時の健康保持と云う大切な安全安心保障を先ず司るべしと、オバマの信念はそう訴えたかったのであろうと考えた。

オバマの平和賞演説

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 一昨年12月10日のオバマのノーベル平和賞受賞演説を日本語訳がついているCDで聞いた。演説の中で戦争と云う言葉を44回発言し、平和を29回使い、戦争はやむを得ないとする内容は「おや?」と思われる部分もあったが…。歴史に残る名演説と評価するのはやはり保守派の方々に多い。言葉を選び練り上げた演説である事は疑う余地もないが、リベラル派からはオバマも現実的対応をみせ始めたと云う声が聞こえる。平和への歩みは生易しいものではないが、戦う相手によっては生臭い話にもなる。医療が戦う相手は病魔である。テロより厳しい病原菌も多く、長い戦いで努力むなしく病魔に破れる方も多く、嘆き悲しむ家族の前で戦いの中心である医者と云うリーダーは無力感に打ちひしがれる事、度々である。オバマは結束を訴えたが、医療では結束すべき医療従事者と患者家族が、いがみ合う時さえある。強い病魔と闘うには演説内容より行動と知恵の中から学ぶべきであろうし、苦闘の末に勝ちえたご本人や家族にこそ平和賞をあげてみたい気持ちになったが如何であろうか?

オバマの年頭教書

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 オバマ大統領の米国会議での一般教書演説は年頭教書(メッセージ)と別名され、3大教書のひとつである。日本の首相の施政方針に該当するが、注目度は比較にならない位、関心がよせられる。特殊なのは大統領演説とは云え米国会議が招待し、うやうやしく議会内に案内される。立法と行政は別であると云う大前提がそこには携わっている。大統領になって始めての年頭教書であるが、これ迄の大統領は大方、外交問題を真先にあげていた…が、今回は雇用と医療保険改革を優先した。失業率の改善と「公的」医療保険の創設を述べたのであるから驚きで、実は日本の公的保険制度を参考にしようとしているのである。米国は4千万余の方が無保険者で、この方々が病気になったら一家の破産がすぐ目の前に現れると云う状況である。然し、公的医療保険の先進国だと云われる我が国は逆に社会保障費財源でアップアップしている現況でもある。公的医療費が国を潰すか?健康破壊が国を滅ぼすか?新しい仕分けを世界へメッセージ出来れば日本への注目度がよりあがる理屈ではある。

痛くない注射

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 病院で最も印象が悪いのが、あの痛い注射である。注射さえ痛くなかったなら長い待ち時間であろうとも病院独特な臭いがあっても行きやすいのだが…と多くの方々は思っている。特に昨今流行のインフルエンザ渦中、お母様方は子供を病院に連れて行くのに悩ましい。「優しい看護師さんがついていますから大丈夫ですよ」いくら納得させようが、過去に傷ついた子供の心の痛みはおいそれと拭いきれない。病院でもその事は百も承知、痛み対策として細い針を使用したり、時間はかかるが高級な痛み止めの塗り薬など用意している。それなりに時代と共にあの手この手で痛くない注射を考慮中ではあるのであるが…。米国、ジョージア工科大学でミクロン単位(1ミクロンは1ミリの1000分の1)の針をパッチ式に50本つけ、皮膚に貼るだけで予防注射が出来ると云うのを開発した。正に子供にとって朗報であるが、研究開発費だけで12億。そうすると痛くない予防注射の値段は幾等になるのであろうか?逆にお母様の胸の痛みが増えそうなニュースである。

傷の修復

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 傷をきれいに治す…と云うのが美容形成外科医の得意技と認識されている。つまり、一般的外科医より形成外科医が縫合した方が、きれいになるのではないかとの思い込みが、大方の皆様方に多少はある。確かに特殊な縫合の仕方や顕微鏡下で細かく縫合せざるを得ない臨床の場はあるが、これ等はあくまで特殊なケースである。一般的に表現すると昨今の若い外科医などには形成外科的縫合手技など、いとも容易に習得できるほどに鍛錬はされている。その意味からすると救急病院で若い医者に縫合されて残念と嘆く必要は全くないのである。但し、理解して欲しいのは身体の傷は治りにくい場所と治りやすい所が存在するのである。下肢は上肢より治りにくく、顔などは方や関節に比し、傷が目立ちにくい基本的事実がある。これ等の細部を知っているからこそ、形成外科医が特殊な役割を医療で補う事が出来るのであるが…。然し、傷ついた心理的トラウマの修復、対応は複雑で傷を単純に細かく縫合すれば良いと云うものではない…のが現実で、医療現場で厄介さを増すのである。

悩ましき世界

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 一昨年、当院の55周年事業を企画した。その際、性別適合手術の現況をシンポジウムのメインとして行なったが、精神科の先生から県内で70人位の方が性転換を希望され、タイなどの国外で手術をお受けになると云う事が報告された。この現況の改善を計っている所ではあるが、壁が厚く、難問山積みである。一方、外国では受精卵を調べ、着床前診断によって男女の産み分けが明らかに出来るような時代になってきた。米国のあるクリニックの報告では、男女の産み分けを希望するご夫婦は、7年前の80倍にもなってると云うから驚きでもある。ほとんどの国では、子供の性別選択は神の行為を犯すものとして禁止されているが、米国では合法なのである。男の子を望むのか?女の子が欲しいと希望されるご夫婦どちらが多いか興味を持ったが、半々と云うのも不思議な結果であった。古い頭では考えられないほど時代は進んでいる部分もあるが…。医療の進歩は凄まじく、アンダーグラウンドの世界と世間の常識の境界線はどこにあるのか?常に悩ましい事実が出てくるのは確かな事なのである。

医療現場からのレポート

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 医療にはドラマがある。映画やテレビでは涙を誘ったり、感動を呼ぶシーンが多くみられる。命の尊さを学ぶ格好の教材かも知れないが、常に危険との戦いで病に負ける場合も助かる時もある。今回は2つの事例を紹介しておこう。米国の14才の少女は心臓移植しか治療法がない重症だった。然し、運良く(?)間に合って移植された心臓は、運悪く機能しなかったのである。つまり古い心臓も新しい心臓も働きを失った彼女は、正に心臓がなく、困った医師団は人工心臓を取り付け、新しい心臓が来るまで待ったのである。その間4ヵ月、心臓なしで生き続けた彼女は2度目の心臓移植で助かったのである。別の事例である。妊婦の彼女は出産前に脳死となってしまった。胎児に血液がいかないと困るので医師団は彼女の心臓を鼓動させ続け、2日後に胎児の誕生を成功させた。赤ちゃんの名前を「奇跡」と名付けたのも無理からぬ事である。昼夜、頑張り続ける医療チームと患者さん、物語ではない真実のドラマがここにある…このように命を大切にする国作りを日本に望みたい。

神戸の街

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 医療の進歩は著しく、開業医も日々勉強をしないと追いつけない。実は各科に専門学会は沢山あるが、細分化された学術集会は少しく開業医には難しすぎる。云いかえれば学問が枝葉末節で、すぐには医療の現場には結びつきがたい。そこで開業医は小さな集団で臨床に役立ちそうな情報交換の場をおのずと作り出そうとするのである。ある日曜日、そのような集会に友人から誘われた。場所は神戸の小さな公民館である。初めて行く地域ではあるが、地図もあるし、同じ日本人が住む所、間違いはあるまいと軽い気持ちがいけなかった。小さな街の小さな駅までは辿り着いた。構内を出ると外は大雨だった。コンビニで傘を買い、目的場所も聞いてみた。公民館は近く、時間もたっぷりあった。然し、神戸の道は坂道が多く、雨足も激しく、行けど歩けど目的地がない。日曜日の住宅街は人影もなかった。やっとめぐり合えたおばあさんは親切で、阪神淡路大震災の話をお聞きしながら目的地まで送って頂いた。医者としての勉強より、社会の風の心地良さを学んだ日曜日であった。

遺伝子テスト

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 可能ではあるが、遺伝子操作は医学会で禁じられている。病気の原因となる遺伝子をなくす事で先天的疾患は防げるが、一歩誤ると「神の領域」に医学者が侵入してしまう恐れがあるからである。然し、ある特殊な遺伝子テスト、つまり子供のスポーツ適性検査は簡単に出来る。米国コロラド州のあるスポーツ社は綿棒を子供に舐めさせ、筋肉の瞬発力、持続力等々の特性が分かる遺伝子検査を開発した。これでマラソン向きか短距離タイプかスポーツ特性が幼少時に分かり、方向性を持って子供を育てていこうとするのである。当然、賛否両論がある。子供にプレッシャーをかけ、スポーツが楽しめなくなると云う反対論、逆に子供の事は何でも知っておきたいと云う親もいる。もし仮にであるが、私が小さかった頃、この綿棒を舐めさせていたのなら恐らく私の親は、私が医者向きではない人間であったのが、幼少時には分かっていたのかも知れないと考えた。今頃舐めても遅すぎるのであるが…。本当の所、私は何になれば良かったのか?遺伝子テストを今、受けてみたいと思っている。

アメリカ型医療

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 英語の個人教授である彼女が急遽アメリカに帰られた。お母様が急病になったのである。それゆえ、しばらく片言の英語をCDで我慢した。数ヵ月後、沖縄に帰って来られた彼女は早口で母親の症状や慌しかった周辺状況を語り出した。さすがにスピード感のある英語は聞き取れない。「ア~ハ~」「リァリー」などで言葉をつなぐのが精一杯であった。然し、会話がアメリカの医療事情となると出来るだけ聞き漏らすまいとするのは悲しい医者の性であろうと思わずにはいられなかった。興味深かったのは、米国の医療費である。民間医療保険に加入していなかった彼女の親は救急車運搬で52,000円、レントゲンを撮るだけで90,000円、医者の診察は5分で終わったと日本の医者である私に嘆いて下さった。オバマ新大統領はこの米国の医療窮状を何とかしたいと日本の医療制度を考慮中、その日本では社会保障を押さえ込み、小さな政府、つまりアメリカ型社会を作り出そうとしてる。困っているのは国ではなく民なのである。第3極の方針を早めに出してほしいと願っている。

お顔を変えてみたい?

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 美容外科の外来にはいろんな思いの方が訪れる。時には「顔を全部変えて欲しい!」など難題をもって押しかけられる女史もいる。長い間、容姿で悩まれていた方ではあるが、さりとて顔全体への皮膚移植など容易でない事は誰しも分かる話ではある。難題を突きつけた彼女も、その点は分かっての注文であり、結局、顔のたるみ取りをする事で決着した。美容外科医だって簡単に顔のすげ替えが出来るのならやってあげたい…とも思ってはいるのである。そのようなある日、オハイオ州のクリニックから顔の80%を他人から移植し、成功したニュースが流れてきた。この手術は世界で4例目、1例目は5~6年前にフランスで行なわれている。世界の形成外科医がビックリするこのニュースは、やがては日本でも行なわれるに違いない。今の所、美容的には今一歩、単に顔を作ったに過ぎないが…でもである。近い将来、美しい女性から顔の移植を受けられた時、貴方はどうしますか?心は貴方で、お顔は他人。そのような時代、美容外科医の倫理観は?どう問われていくのでしょうネ。

4人の医者と4人の女性の心意気

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 すごいと思った。形成外科領域では世界的に権威のある「P」と云う雑誌がある。毎月届けられてくる内容は実に多彩で厳選された論文のみが掲載される。その専門誌に載る事自体、名誉な事で論文が採用されたら直ちに全世界に名前が知れ渡る。論文に対する批判や反論も載り、読んでいる我々形成外科医は、それだけで世界の趨勢が読み取れ、心がウキウキするのである。去年の3月号は素晴らしかった。世界でピカイチ4人の美容外科医が4人の患者さんに顔のしわとりを、それぞれの得意としている術式で手術したのである。これだけは何の変哲もないが、4人の患者は双子の2組で別々の医者が手をつけ、10余年に渡って比較し優劣をつけようとした結果が載っていたのである。ご協力頂いた双子の女性達にも感心するが、10年間の写真は術前・術後、全く同じ角度で寸分違わない証明写真で評価を示したのである施術された4人の女性は全員10年前より若々しくなっていたが…。技術者は勿論の事、術者と彼女達の心意気こそ若さの原点だとこちらが参ってしまったのである。

お医者さんはいませんか?

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 飛行機や新幹線車中、突然ではあるがアナウンスがある。一般的には乗務員の方からの通達が多い。飛行機なら「シートベルトをお閉め下さい」「もうすぐ着陸です」新幹線ならどこそこを通過中などであろう。気に留めるほどもなく、指示された如く反応する。アナウンスが突然、我が身に降りかかる。「お医者様はおられませんか?急病人が出ております」となると一瞬戸惑いが走る。決して、すぐに反応し「私は医者である」などとはいかない。医師の心中に、幾つかの葛藤が始まる。「お酒を飲んでしまったが臭わないか?」はまだ良い方で、心のざわめきは、よからぬ方向へ広がる時が瞬時にある。「産婦人科など専門外の分野であったらどうしよう?」「誰か別の医者でもいるのではないか?」などである。他人からみたらすぐに手を上げ、立ち上がったように見える車中の医者でも、素早い幾つかの動きが心に生じる。過日の車中は、熱いコーヒーを手にこぼした幼児であった。患児の火傷の重症度はとこかく、自分の専門内の事であり、妙にほっとした瞬間である。

病院の前の交通事故

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 すごい音がした。ご近所に響き渡る音響(?)看護師さんも一瞬そのすごい響きが自動車の衝突音、いわゆる交通事故だと判断し、外に出る。診察室にいる医師は、そうもいかない。目の前には明らかに苦しんでいる状況の患者さんがいるからである。でも…そのような時でも現場から帰って事故を目撃した看護師さんは、そ~っと私に耳打ちをする。「先生、けが人が出ているようです」…と。さて、「もうひとつ仕事が増えたか!」重い心の荷物を持ち上げ、先ずは目の前にいらっしゃる患者さんに一言告げねばならない。「どうも病院の外で急患が出ているようです。貴方の苦しんでいる状況は、ある程度理解しましたが、外で苦しんでおられる方を先ずは診てきます。」このように告げると、大方の患者さんは納得する。道路では血だらけの顔をタオルで押さえている若者がいた。命に別状はないようだ。視力もしっかりあるし、反射神経も正常、あとは傷だけの問題だ…と考えた時、救急車が到着。さっさと目の前の私を置き去りに、急患を運んでどこかへ行ってしまった。

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